王子様とブーランジェール
う、うおぉぉーっ! !
ど、どこから見てた!
「と、桃李…!」
「ひぃぃっ!…お、おはようございます…」
と、びっくりした悲鳴をあげながらも目を合わせてこない。
苦笑いをしながら、後退りしている。
ヤバい。ヤバいぞ。
密着しての耳元の囁き、見てたんだよな…その態度は。
こっちもドキッとしてしまったぶん、かなり罪悪感だ。
晴れ晴れとした門出の初日の初っぱなから、なんてことを…!
…思えば、嵐さんのいた位置からは、桃李の存在を確認できる角度だ。
ま、まさか…あの女豹、わざと…?!
ちっ…最後の最後まで!
「と、桃李…」
一歩近付いた途端、「わ、わわわわっ…」と一歩後退される。
え?避けられた?!
…ものすごくグサッときた。
「あ、あぁぁ…」
「ま、待て!」
そして、ダッシュで逃げられる。
…逃がすか!
咄嗟に出た手で、ヤツの背中のバカでかいリュックを掴む。
「わわわわ!」
制止された反動で、ヤツの体はガクンとなり足元がフラフラともつれていた。
おまえ、足遅い!
それに、これ以上逃げられてなるものか。
「何で逃げるんだ!」
「あ、あ、あの、そのっ…」
「今の…見てただろ?」
そう言うと、桃李はビクッとしている。
あわあわと挙動不審になり始めた。
「の、覗き見してたワケじゃっ…ご、ごめんなさいぃっ!」
「覗き見?…こんな公衆の面前で覗き見じゃねえ!堂々と見えてるだろが!」
「あ、あぁぁ…」
俺、そうじゃねえだろ…何で俺が怒ってんの。
公衆の面前で俺も何されてんだか…。
隙を見せてしまった俺が悪い…。
「…桃李。今のは違うからな」
「え、えぇぇ、ち、ちが…」
「あっちが勝手にその…ちょっとくっついてきただけだ!勘違いすんなよ!イチャついてねえ!」
「あ、あ、あ…そうですか」
「そうですか?!あぁ?…おまえ、そこ怒るとこじゃねえの?他の女とイチャつくなってさ!」
「何で?」
「………」
何で?だって。
ガクッときた。
何だ俺…。
一人で突っ走ってる感あるんですけど。
恥ずかしっ…。
自分の独りよがりな言動にガッカリしていると、桃李は横でぶつぶつ独語している。
「あぁぁ…そ、そうか…」
「…あぁ?」
「き、昨日のこと…う、嘘かと思っちゃったの…」
「う、嘘っ?!」
「みおさんと一緒にいるの、見て…あ、夏輝が好きって言ってくれたの、嘘だったのかなって思って…全部嘘ー!みたいな」
「………」