王子様とブーランジェール








「…へぇー。おじさんに見られたの」

「………」



昼休み。弁当食い終わった後に、コーヒーが飲みたくなって理人と売店に行く。

チルドカップのノンシュガーのアイスコーヒーを自動販売機で購入して、ミルキングを買った理人と共に、教室へと向かっていた。



昨晩、理人から『どうなった?』『失敗して今泣いてる?』だとか、LINEがしつこかった。

泣いてる?…嬉し泣きだっつーの。

メッセージで話すのもめんどくさいので、喜びのスタンプだけ送信しておいた。

そして今、歩きながら大まかに報告中。




「大丈夫じゃない?神田家は夏輝を大歓迎でしょ。婿に来いって言われてたんだろ?」

「それは苺さんだけだろが。肝心なのはおじさんだというに…」

「きっとおじさんは気付いてたよ。夏輝が桃李を好きだってこと」

「………」

…だから余計、あの痴漢現場は見られたくなかった。




「…さて。これからが大変だな」



そう言う理人は、ずるく悪そうな笑みを浮かべる。



「…大変?何が。って、おまえ楽しんでんじゃねえよ」

「あはは。これからの道のり?学校生活?…だって、夏輝はミスターだろ?彼女になっちゃった桃李はきっと大変だ。楽しいよー?」

「………」

…そんな話か。

そんなことは、わかっている。

嵐さんの一件を思い出しては、イラッとさせられるが。



だが、決意は固い。




「もう金輪際あんなことはねえよ。もしそんなことがまた起きるようなら、女だろうが殺す」




すべての敵から桃李を守る。

それだけは、絶対貫く。




「女だろうが殺すって、物騒だねー」

「うるっせぇな。そんぐらいの意気込みがありますってことだよ」

「まあ、俺も桃李にはミスター夫人としての心得でも指導しておくよ。これが援護射撃?」

「こざかしい。そんな援護なんていらねえ」

「だって、今朝の嵐さんみたいなことでいちいち動揺してたらキリないでしょ。桃李がね」

「………」

うるっせぇな。

「桃李を守るのも大事だけどさ。夏輝自身も女子に隙を突かれないようにした方がいいんじゃない?」

うるっせぇな!

「…それにさ?敵は女子だけじゃないからね?あんな風に?」




そう言って、理人は前方を指差す。



そこは、いつの間にか辿り着いた教室の前。

だが…。




(…何っ!)





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