王子様とブーランジェール



1年3組の教室の前には、とある男子生徒と女子生徒が立ち話している。

…立ち話?



見覚えのあるそのツラに、イラッとくる。





「神田さん!そういうワケで、この日一緒に出掛けませんか?!で、帰りに大通公園に寄って鳩にエサでもあげて…」

「た、た、高瀬センパイ、そ、それは…!」

「これ、デパートの催事場に道内の有名なパン屋さんが一同に集まって、一斉に出店するそうなんですよ!とても大きいイベントらしくて、ぜひ神田さんと他の美味しいパンを食べ歩けたらと思って!」

「あ、そ、そうですか…で、でも…」

「来月なんですけど、どうですか?神田さんご予定どうですか?」

「あ、あの、それ…」



出た。出たぞ。

久々に出た。

ゴリラの高瀬…!

久々に教室に来やがって!



高瀬は一枚のビラを持っていて、それを桃李に見せている。

イベントに託つけて、桃李をデートに誘っているのか…!

いつまでもいつまでもしつこい…!

許されないわ…!




「まあ…夏輝も大変といったら大変だな。桃李は可愛いから、高瀬センパイだけじゃなく、ああいう輩はいっぱい現れると思うよ?」

「うるっせぇな…」

「俺の言葉をうるさがるより、今はやるべきことがある。まずは『俺、出陣』だろ。行ってこい?」

「………」



何となく理人のセリフに乗せられたカタチとなり、手に持っていたコーヒーを理人に預ける。

二人のもとへとずかずかと身を進めた。




高瀬、許されないわ…!

大通公園の鳩に、餌付けするな…!

俺、出陣。




高瀬への怒りMAXで、二人のもとへと突撃するかのようにずかずかと向かう。




「…それでそれで神田さん!もし来月ダメなら、今週末公園行きませんか?!紅葉、今が見所ですよ!」

「こ、こ、公園、ですか…あ、あ、あの…た、高瀬センパイっ!」

桃李が声を張り上げた。

ゴリラの押しに負けじとしたのか、顔が真っ赤になっている。

「は、はい?何ですか?」

「た、た、高瀬センパイ…そ、その催事、わ、私、行くんです…と、いうか、うちのお店、出るんです…」

そう言って、ビラを指差している。

「こ、ここの『boulangerie pandaful』は、うちです…」

高瀬も指差した部分を二度見している。

「あ、そうなのですか!神田さん、店頭に立つのですか!ならぜひ行かせて下さい!」

「あ、あぁぁ…はい。あ、あと…せ、センパイ…」



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