王子様とブーランジェール
顔が真っ赤になりながらも、表情はどこか必死で。
何かを言いたそうに一生懸命になっており、目がうるうるし出した。
それは…勇気を振り絞っているのかと思わせる。
思わず立ち止まってしまい、見守ってしまった。
「せ、センパイっ…私、で、デートには行けませんっ…」
「…え?」
「つ、つ、付き合ってる人、出来たんですっ…だ、だから、行けませんっ…」
付き合ってる人出来たんです。
だから、デートには行けません。
…今、そう言った?
言ったよね?
確かに、言ったよね?
(………)
何か…。
今、実感した。
昨日のことは、嘘でも夢でもない。
桃李の口から、まさかそんな事を聞けるだなんて。
胸いっぱいになったんですけど…。
すげえ、嬉しい…。
「………」
高瀬も絶句してフリーズしている。
すごい顔したまま固まっている。
ゴリラのひどい顔。傑作だ。
桃李、渾身のクリティカルヒットだぞ?
これで高瀬も破滅だ。
ゴリラ崩壊。
ザマーミロ!
…と、思うには甘かった。
「…か、神田さん」
「は、はい…」
「…騙されてませんか?」
「…は?えっ?」
高瀬の突然の意味不明発言に、今度は桃李が驚きの表情そのまま固まっている。
だろうな。
高瀬、なぜそんな発想になる?
「神田さん、もしや…『付き合ってください』と言われて、『どこに行くんですか?コンビニ?』と勘違いされたのでは…!」
「え?…えぇぇ!」
「神田さんの優しいおっとりしたところにつけこんだ、悪徳な輩の仕業ですか!なんてことを!」
「なっ!なななな…そ、そんなっ」
「そんな事をする輩は、どこのどいつですか!そんな輩は、俺がやっつけますよ!…どいつだぁーっ!」
高瀬よ。
なんて病的すぎるポジティブシンキングだ。
見ているこっちがクリティカルヒットだ。
おまえを撃破するには、レベルどれぐらい必要なんだ。
っていうか。
悪徳な輩…?
ゴリラのくせに、言ってくれるじゃねえか…!
こっちとしては、おまえが悪徳ゴリラだというに!
だいぶイラッときたぞ?おまえのキモすぎるポジティブシンキングに…ゴリラポジティブシンキングか!
「神田さん!この高瀬、命をかけてあなたをお守りしますよ!」
「…あっ!あ、あ、あぁぁせ、センパイ…!」
桃李が急に挙動不審になり出した。
それもそのはず。
高瀬、桃李の手を握ってる…!
このクソゴリラ…桃李に触るな。
その手を離せぇぇーっ!!