王子様とブーランジェール
黙って様子を見ていたが、もう黙っちゃいられない。
その汚いゴリラの手で、俺の愛しい桃李に…触るんじゃねえ!
二人の間にずかずかと無理矢理割って入る。
桃李を背に庇い、ガバッと顔面上部をわしづかみ。
「な、夏輝…」
「ぐぉっ!…り、竜堂!」
そのままその指に力を入れて握る。握り潰す勢い。
アイアンクローだ。
「…その、悪徳?な輩の登場ですけど…?」
その憎たらしいゴリラ面を正面にしたら、イライラが増し増しになり、思わず掴みかかってしまった。
「いっ!…離せ!離せ竜堂!」
「…あぁ?…うるっせぇな!この悪徳ゴリラが!おまえが桃李の手を離せぇぇっ!喋るな見るな近付くなとは言ったが、だからといって触っていいとは一言も言ってねえぞこの悪徳ゴリラあぁぁっ!」
そう言い捨て、掴んでいる高瀬の顔面をぐっと後ろに反らす。
高瀬は「ぐぉっ!」と、ゴリラの悲鳴をあげ、その衝撃で桃李の手を思わず離していた。
フリーになったその手は、俺の腕を振り払う。
あまりゴリラの顔を触ってはいたくないので、俺も高瀬のゴリラ顔面から手を離した。
汚い。
ゴリラの顔の油が手についた。
その手を悪徳ゴリラのブレザーの袖にごしごしと擦り付けてしまう。
「…竜堂コラァァっ!何を擦り付けてんだぁぁっ!」
「ゴリラの顔の油だっつーの!おまえの顔の油だから、地に返ったみたいなもんだろうがぁぁっ!」
「だいたいなぜ毎回邪魔しに来るんだコラァァっ!おまえに何の権限があるんだぁぁっ!」
…権限?
よく聞いてくれましたね?
前までは、そんな権限もなかったが。
今の俺には最高の権限がある。
「…桃李は俺の女だ…」
「…は?」
「…桃李は俺の女だっつってんだよ!だから、人の女、デートに誘ってんじゃねえよコラァァっ!」
あぁ…とてもいい響き。
「は?竜堂が?…竜堂が神田さんと?」
高瀬はびっくりゴリラ面で、俺と桃李を交互に見ている。
そして、何かを訴えるように桃李をじっと見つめていた。
「神田さん…本当ですか?」
「あ、あ…」
「付き合っているという悪徳な輩とは、この竜堂のことですか…?」
悪徳な輩とは何だ。この悪徳ゴリラ。
まだ騙されているとでも思ってるのか。この病的ポジティブシンキングクソゴリラ。
すると、桃李は挙動不審からもじもじとし出す。
恥ずかしそうに「はい…」と頷いていた。