王子様とブーランジェール
しかし、松嶋。
桃李に面倒なことを振ってくれるな。
こいつ、タダでも変わってるんだから。
まるで悪夢にうなされているかのように、悶えて嘆く桃李に、その『Tを探せ!』について説明する。
「…だから、ほら。こういうベンチの端っこでもTに見えれば何でもいいんだよ」
「夏輝、天才だね…」
いやいや。違う。俺は天才じゃない。
おまえがだいぶバカなだけ。
すると、そこに諸悪の根源がやってきた。
「いーやっほーぅっ!桃李、何やってんだぁーっ!」
来た。意味もなくテンション高いぞ。
桃李を、よくわからないTのメビウスループに押し込んだ張本人、松嶋…!
桃李に面倒なことを振りやがって!
許されないわ!
一目散に走って行き、両手で桃李をどついている。
桃李は尻もちをついていた。
どついて…許されないわ!!
「…あ、松嶋、T見つけたよ」
「はぁ?ティーエス?…まあ、桃李。そんなこたどうでもよい。それより、これから大間のマグロを釣りに行こうではないか!おまえも来い!」
松嶋の手には、釣竿とバケツが。
さっき俺達が使っていたのと同じやつだ。
松嶋の後ろには、黒沢さんや菊地さんたちがいる。
「桃李も一緒に行こうよー!」
「りみちゃん、真奈ちゃん…行く!」
そして、桃李は何もなかったかのように、立ち上がり、黒沢さんの隣へと行ってしまった。
って、あれだけTに嘆いて悶えてたのに…何だったんだ?!
「…お!おやおや。竜堂のダンナじゃないのー!さっきのボルダリング、凄かったねー!女子たちキャー言ってたわキャー!」
松嶋、おまえは見てたのか。
桃李じゃなく、おまえが…。
「さてさて。拙者はただいまから大間のマグロを釣ってくるぜよ。釣れたら竜堂のダンナにも少し分けてやるのだぜよ!」
バカか。川魚しかいねーし。
大間なのか、土佐なのか、はっきりしろ。
そうして、松嶋たちは去っていった。
桃李も一緒に。
…桃李に至っては、俺の方を見向きもせずに去っていった。
全力で駆け付けたのに。
Tの説明もしてやったのに…!
あっさりと松嶋の方に行ってしまうなんて!
また、負けた…。
ぬおおぉーっ!!
悔しい!