王子様とブーランジェール
小笠原は、扇子で口元を隠したまま。
俺の方をじっと見つめている。
無言の圧を感じるのは、俺だけだろうか…。
でも、それに怯んでいる場合ではない。
「あの…ファンをやるのは勝手にしてくれて構わないんだけど」
「ええ」
「でも、アイツのことは構わないでくれ。っていうか、俺達のことはそっとしといてくれ」
「………」
「お、俺もようやく…アイツとそういう関係になれたんだ。だ、だから…」
「おめでとうございます」
「俺達のことは…って、えぇっ?!」
え?今…何て言った?
思わず小笠原を二度見してしまう。
想定の範囲外の発言が耳に入った。
幻聴じゃ…ないよな。
この人、今。
『おめでとうございます』って言ったよね?
疑惑の視線を小笠原に向ける。
いや、この『おめでとうございます』は、祝福の意味ではないかもしれない。
警戒を解くな…!
すると、小笠原はうふっと笑う。
口元を扇子で隠したまま。
「…夏輝様が、あの神田に好意を寄せていることは、ミスター御就任前から存じておりましたわよ?」
「えっ…!」
思わず声をあげてしまう。
小笠原の傍にいる、鈴木さんや金村さんもうんうんと頷いていた。
し、知ってた…?!
嘘っ!
ミスター御就任前…そんな前から知ってたって?!
「…それに、お二人が結ばれたというお話は、先ほどゴリラと戦っている最中に、そこの和田様からお聞きしました…」
「…はぁっ?!理人?!」
理人は少し向こうで、壁に背を預けもたれかかりながら、俺達の様子を見ている。
俺の視線に気付くと、舌をペロッと出していた。
てへぺろか?!このやろっ…!
言いふらすな!
しかし、頭がこんがらがる。
俺が桃李のことを好きだと知っていたのに。
こう…夏輝様夏輝様と騒いでいたとは。
なぜ?
桃李が天パ眼鏡だから、眼中になかったのか?
それとも、俺が桃李に相手にされていなかったから、気にする必要なくね?みたいな?
おいおいそれは心外だ。
とりあえず、何で?
しかし、それは。
俺の想像の上を行く。
「…夏輝様」
「は、はい!」
あまりにもパニりすぎて、桃李みたくかしこまって返事をしてしまった…。
「…なぜ、私達が『他の女子に想いを寄せる夏輝様をそれでも追いかけるのか?』と、思ってらっしゃいますでしょう?」
「………」