王子様とブーランジェール
…ええ。そうですよ。
と、思ってはみるも。ちょっとパニっていて、返事がおぼつかない。
しかし、この人は。
「そんな『恋する夏輝様』もお素敵ですわ…!」
そして、お決まりの高笑いを始めた。
は?…は?
何…言っちゃってんの?この人!
ますます頭がこんがらがる。
理解できないスタンスに、キャパ超え寸前だ。
「オホホホ!…私達は、夏輝様に『恋』をしているわけではございません?近い感情を持ちながらも、それは恋愛感情ではございません?」
「はぁ…」
「ゆえに、あなたとどうにかなりたいとは思っておりません?妄想は致しますけど?」
「はぁ…」
近い感情はあるが、恋愛感情ではない。
恋愛感情はないけど、妄想はする?
妄想は恐い。普通に恐い。
そして、わかんない。
「…要するに、私達にとって、あなたは男性…いや、人間として尊敬をするに値する御方なのです!雲の上の存在でございます!…まさしく、神ですわ!」
雲の上の…神?
ますますわからん。
すると、高笑い女の両脇を固めていた鈴木さんと金村さんが、顔を見合わせて笑って言う。
「…実は、夏輝様の恋、心の中で応援していたんですよ?『今だ!行け!そこ、話しかけて!』みたいな?」
「学校祭での彼女を巡るゴリラとの戦いや、後夜祭のファッションショーに乱入して、彼女を庇ってエリ姐さんとバトってた時はシビれました…」
「………」
別に、あのデスマッチは桃李をかけてケンカをしたワケではないが…。
「夏輝様だって人間ですもの。そりゃ恋愛だってするでしょう。私達にそれをとやかく言う権利はありません」
「むしろ、心に決めた御方がいるなら、応援したいですよ。私達は?」
何だその心理状態。
俺のこと、応援していた?
俺、何見られてんの?恐いんだけど。
これは、ホラーだ。
だが、彼女たちは…それを了承済みの上で、俺のファンをやっていたということ…?
やはり、よくわからん。
「ですので、ここにいる私達は、みんなが夏輝様をお慕い、応援し、愛を貫いていきたいと思っております?」
「はぁ…」
その心理がよくわからないまま、返事をしてしまう。
すると、理人がフラフラと横にやってきた。
「ようするにね、こいつらにとって夏輝は神なの。まあ、掘り下げて簡単に言えば、テレビの中のアイドルの感覚と一緒」
「………」
…それ、本当かよ。
何か違うような気がする。