王子様とブーランジェール
要は、テレビの中のアイドルを追っかける感覚と同じなのか?
確かに…アイドルを好きでも、どうにかなるとは現実的ではない。でも、妄想はする。
男目線からで言うと、アイドルグループの推しメンの応援をする感覚だろうか。
でも、俺はアイドルじゃねえんだよ…。
やっぱり、よくわからん。
ため息が出る。
…でも、否定されるよりは、応援の方が良いか。
良いってことにするかな…。
自分なりに納得する理由を頭の中で模索していたが。
そんな最中、向こうから桃李の「ひいぃぃっ!」という、汚い悲鳴が聞こえてハッと我に返る。
えっ?…何?!
「…ひいぃぃっ!」
「…この女あぁっ!…おまえ、とうとう夏輝様を落としたな?…何を、何をどうやって落としたぁぁ!」
「あ、あ、あ…な、な、なんですか」
そこには…またしても、想定の範囲外の出来事が。
「私の…私の夏輝様に!…このズベタ!」
「ひいぃぃぃぃっ!た、助けてぇぇ!」
あのビッグマシュマロ、山田フリージアが。
桃李に詰めよっている…!
そして、桃李の胸ぐらを掴んで、前後に振って揺らしている…まるで、因縁をつけるかのように。
「や、山田!桃李に何すんだ!」
「夏輝様、大変申し訳ありません…フリージアだけは論外なので放っておいて下さいませ…」
小笠原が横で、苦笑いをしている。
「フリージア!神田に因縁つけんな!このもち肌まる女!」
「やめろ!夏輝様が怒るよ!」
鈴木さんやバヤセ姫こと、森原が遠くから大声を張り上げて制止をはかるが。
山田はやめる気はないらしく、桃李から手を離さない。
「だって…だって!夏輝様はフリージアのものなのにぃ!…この女、きっとセコい戦法使って夏輝様を落としたに違いないぃー!…オラ!この神田!私の夏輝様に何をした!」
「あ、ああぁぁ…な、なななな…」
「変なクスリ持ってんのか!…媚薬持ってんのか!汚いメス!」
「も、も、もももも…なななな」
桃李、言葉になってない。
山田は…山田だけは、この思想に染まらなかったのか…。
嫉妬丸出し全開…。
しかし、山田が相手だからだろうか。
コントにしか見えない。
「挙動不審ダメドジ女、ですか…」
小笠原が、山田と桃李の様子を見ながら呟く。
そして、ふふっと笑った。
「…の、割には…芯のある女ですわ?」