王子様とブーランジェール
「………」
小笠原のふと口にした発言に、思わず反応してしまう。
扇子を広げて笑みを浮かべる小笠原をつい見てしまった。
「芯の…ある?」
「ええ」
「…何で?」
芯…あるんだろうか。
あの桃李だぞ。この上なくバカなヤツだぞ。
思い違いの芯は硬いけど。
すると、また小笠原はふふっと笑う。
「…球技大会の最中の話なんですが…。神田がこのこずえさん達にイジメられている現場に出くわしたのです。私」
「………」
そうだったのか。
藤ノ宮や理人だけではなく、この小笠原もその桃李のイジメ現場を目撃したというのか。
それは、球技大会の二日目のこと。
現場は、体育館の裏。
なんと、俺がサッカーの試合をしている最中のことだったそうだ。
小笠原は、トイレに行った帰りに体育館の裏が騒がしいことに気付いて、何となく足を運んでしまったという。
そしたら、女子生徒の集団リンチの現場が。
『竜堂くんの幼なじみだからって、彼女気取ってんじゃねえよ!このストーカー!』
『身の程を知れ!竜堂くんはおまえなんか眼中じゃないってーの!』
俺の名前も出てきて、これは他人事ではないと思い、仲裁に入る。
『…あなた方!一人を寄って集って殴る蹴るの暴行とは!それが平民の娯楽ですか!なんて低能な!』
小笠原の尋常じゃない迫力に、イジメ女子たちは風のようにあっという間に撤収。
そこには暴行を受けた桃李だけが残った。
(…あら、この御方…)
すでに桃李の存在を知っていた小笠原。
これは何たる事態だ!と危機を感じたという。
『あなた、大丈夫ですか?』
『は、はい、すみません…』
ぷるぷるとゆっくり起き上がる桃李に手を貸した。
そして、事情を聞く。
『あなた、これは一体どういう事態なのですか?なぜあなたは暴力を…』
『…あ、いや、よく、わからないんですが…』
『よくわからないって…話が聞こえてきましたが、夏輝様が関係してらっしゃるのでしょう?』
『い、いえ、あの…』
言いづらそうにしているその様子。
恐らく、俺が関係していても当の本人は事情を知らないということに気付いた。
すると、桃李がハッとして話し出す。
『…あ、すみません、あなた、夏輝のお友達ですよね…?』