王子様とブーランジェール
えっ。
自分の存在を、桃李は知っている?
…って、あれだけ教室に押し掛けていればわかるか。
『な、夏輝のところに、よ、よく来てますよね?お友達、ですよね?』
『まあ、お友達というよりは…神と信者みたいな…』
『な、夏輝にはこのこと、い、言わないでください…お、お願いします…』
『え…』
そう言って、桃李は頭を深く下げる。
しかし、小笠原はそれには素直に同意出来なかった。
『それは何故ですか?話の流れですと、あなたはありもしないでっち上げの話で因縁をつけられているだけでしょう?それは夏輝様が原因なのですから、直接本人にお話ししておいた方がよろしいのではないのですか?』
しかし、小笠原のその意見に、桃李はブンブンと首を横に振る。
『だ、だ、ダメですよ…い、言ったら…』
『あなたが言いにくいのなら、私からお話し致しますが』
小笠原は俺の性格をわかっていて、こんなこと後から俺が知ったら、大変激怒するとも思って、そう助言をしたらしいが。
『だ、だだだだダメです…』
頑固に拒否される。
『…何故ですか!』
『そ、それは…もし、この事を夏輝が知ったら、か、悲しむからです…』
『え…』
『こ、このまま私が我慢すれば、な、夏輝には知られません…な、なので、このまま、ほとぼりがさ、冷めるのを待とうかと…』
『それはよろしくない解決法ですわ?』
『い、いいんです…わ、私は今まで、夏輝に散々迷惑をかけてきたので…』
『そんなことはないでしょう!』
『あ、ありますよ…ダメで、ドジなんで、私…だから、もう、迷惑はかけたくないんです…お荷物にはなりたくないんです…』
『お荷物だなんて…』
『じ、自分のことは、自分が何とかするんです…それが、出来るよう、強くなりたいんです…』
そう言って、桃李はうつむき加減にジャージについた汚れを手で払っている。
『こ、これでも、わ、私なりにな、夏輝を守ってい、いるつもりであります…い、今は、挙動不審なダメドジ女ですが…』
上げた顔は、目をうるうるさせて、ぷるぷると震えていたが。
その割には、いっぱしのことを声を震わせて言う。
『…いつか、夏輝の隣に肩を並べていられる程、強くなります、つもりです…』
そして、小笠原の横を通り過ぎるが。
足を止めて、今一度振り返る。