王子様とブーランジェール
『…だから、夏輝には言わないでくださいよ?…しーですよ』
そう言って、口元に人差し指をあてて、小笠原に念押しをしていた。
良からぬ方向には走っているのだけど。
それでも、弱いながらも自分に出来る何かをしたくて。
大切なものを守りたくて。
ちゃんと、前を向いて…自分の意志を頑張って貫こうとしている。
そんな気がしたと言う。
『はぁ…』
『…あ、「ここだけの話だけど…」っていうフリもダメで、ですよ…?それは、ずるいですよ?』
『じ、じゃあ!私の頼りにしている親愛なるお姐様が三年生にいるのですが、その御方にご相談するのはいかがでしょう?』
『…イカ?イカ、食べたいんですか?』
『いえ、そうではなくて…』
…その話を聞いて。
目を丸くして、固まるしかなかった。
いつからこの娘は、そんないっぱしのことを言えるようになったんだろう。
自分なりに俺を守っているつもり?…バカを言ってんじゃない。
バーカ。おまえごときに守られる程、俺はヤワじゃねえぞ。
お荷物になりたくない?…おまえぐらいのお荷物、俺が背負って歩けないと思ってる?
全っ然、歩けるどころか、ダッシュできるわ。
迷惑かけたくない?…今さら、何を言ってるんだ。
ここまで来たら、そんなものかけようがかけられまいが、たいして数は変わらないぞ。
…だけど、こんなにも胸が熱くなるのは、なぜか。
大切にされている。
そんなことを感じてしまって…不覚にもじーんときてしまった。
「おいおい。何フリーズしちゃってんの。感動しすぎ?だらしない顔だねー」
「うるっせぇぞ理人…」
そんな恥ずかしい顔をしてるのに、隠すのを忘れてしまうくらい、感動したのは言うまでもない。
何故俺は今まで、ヤツに興味を持たれていないと感じてしまっていたのだろうか…。
そこで小笠原は「オホホホ」と笑う。
高笑いでも、大きくない声で。
「…ですが、夏輝様?あの神田は、少々おバカなところと、女のたしなみが若干足りないのが、気になりますわ?仮にも、私達のミスター夫人ですからね?」
「…は?」
「少々、教育と指導が必要かと」
「………」
そう言って、小笠原はパン!と扇子を勢いよく閉じる。
不敵な笑みを浮かべながら。