王子様とブーランジェール




中央のボードいっぱいに。

矢でハートが描かれていた。

ハートの中、下寄りに、『LOVE』の文字が矢で描かれている。



嘘っ…こんなこと出来ちゃうの?

松嶋、ダーツの選手か何か?

マジ、エンターテイナーだ!



人並みはずれたスゴ技に、ギャラリーの歓声は止まない。

陣太や咲哉もちょいと興奮気味で『すげー!!』と声をハモらせていた。

でも、LOVEの文字、ど真ん中じゃないぜ?

下に寄ってるぜ?

惜しいな?

なんて、苦し紛れの負け惜しみを思ってみるが。



「桃李!桃李!」

松嶋が桃李に耳打ちしている。

え!こそこそ話ですか?

ハートのダーツボードを指差しながら、こそこそ話をしているようだ。

すると、桃李の顔が急に真っ赤になる。

「や、や、や、やめてっ!やーめーて!松嶋ぁっ!」

すごくムキになっている…?

桃李は松嶋の手に持っている矢を取り上げようとしている。

「うえー!バーカバーカ!」

対する松嶋は、後に下がって避けていた。



二人、じゃれあってるわ…。



あぁ…いかん!

ダメだ!ダメだ!



「夏輝?」

その場を無言で速攻立ち去る。

早歩き、競歩で。



ダメだ!ダメだダメだ!

あの光景を目にしてはならない!

さもなくば…心折れてしまう!

桃李が他の誰かとイチャこいてる姿など!

心、折れる!

本気の本気で、負けてしまう!



みんなから離れたところで、足をゆっくりと止めた。

何となく、そこら辺にあった椅子に座る。




…ぬおおぉーっ!!

や、やっぱり悔しい!

こそこそ話したり、じゃれ合ったり!

それに、今日ずーっと一緒にいるじゃねえかあいつら!

許されないわ!




弱気になって、大事なことを忘れていたようだ。

悔しいと思うことを忘れてはいけない。

俄然負けん気。

諦めが悪いのが俺ですけど?

絶対、負けねぇ。



…と、でも自分に言い聞かせでもしなかったら。

もう負けてしまうような気がした。

…自分に。

松嶋に負けるより。

自分に負ける方が嫌だ。

そっちの方が、許されないわ!



ちっ。イベントだからって浮かれてんじゃねえぞって。

バーローめ。

これ終わったら、テスト待ってんだぞ。

部屋戻ったらテスト勉強でもしてやろうか、こんちきしょう。



もう、悪態つきまくり。



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