エリート弁護士は独占欲を隠さない
「あぁっ、地番は調べたのですが、やることがいっぱいで……」
頼まれていたのは、不動産の所有権者や抵当権などが記された書類で、今抱えている事件に必要なものだ。
これを取り寄せるには、土地に割り振られた“地番”という符号を調べる必要があり、そこまではやったんだけど、電話対応や他の書類を片付けているうちにすっかり頭から飛んでいた。
「言い訳は聞いてない」
「すみません……」
またやっちゃった。
頑張っているものの、私は特に法律を勉強したわけでもないただの事務員。
専門的なことは必死に覚えている最中で失敗続きだ。
大学を出てすぐに朝日法律事務所に就職して一年半。
入社して一年は、何人かの弁護士の下で雑用業務をしていたんだけど、その後は九条さんの専属秘書となり約半年が過ぎた。
どうせ専属になるのなら、東京事務所所属の二十三人いる弁護士のうち、四十代半ばで物腰柔らかな青田(あおた)先生あたりがよかったな。と思ったとは決して言えない。
私と九条さんの相性がいいとはとても思えない。
だって、毎日叱られているんだもの。