神様の使いは、初恋をこじらせました。
翌日、私は片桐くんの顔を見るなり駆け寄ると、嬉しさのあまり握手した。

「ありがとう、片桐くん。片桐くんの教えてくれた噂のおかげで、拗らせてた初恋の人に会えたんだよ。それで、彼氏もできた」

「そっか。よかったね。あの噂、教えてよかったよ。でも、あの噂は内緒だよ。誰にも言っちゃいけないよ、願いを叶えてくれた神様が怒っちゃうらしいから」

「あ、うん、わかった。でも、それじゃ、なんで私に教えてくれたの?」

「ああ、実は俺は、願いを叶える神様の使いなんだ」

「えー?」

私がびっくりして声を出すと、片桐くんは人差しを自分の唇に押し当てた。

「静かにして。あのね、俺は、優しい行いをした人間を探して、神様に教える役目。立花さんは、優しい行いをしたからさ」

「いつ?私が?」

「立花さんが中学3年生の時、5歳ぐらいの女の子が道路に飛び出したのを助けたでしょ」

「あ、うん」

私は、小さく頷くと、片桐くんの目をまじまじと見つめる。

「だ、だからだよ」

「だからだよって言ったって…信じられない。神様の使いだなんて」

「ま、まあ、立花さんの願い事は叶ったんだからいいんじゃない」

片桐くんは、私の手を解くと、さっさと自分の席に向かっていった。

「ちょ、片桐くん!」



あっぶねー。
危うく抱きしめそうになったじゃないか。

中学3年生の時、妹を助けてくれた立花さんを好きになったんだ。同じ高校に通いたくて勉強して、俺は立花さん専用の神様の使いになった。


『ねえ、立花さんは願い事とかあるの?』

『あるよ。会いたい人がいるの。初恋の人。未だに拗らせてる』

『へえ、そうなんだ。あ、いいこと教えてあげる。この高校には、ちょっと不思議な噂がある。理科室の一番後ろの机の裏に、願いを書くと絶対叶うんだって。大学合格や成績アップ、恋愛成就などみんな叶ったんだよ。立花さんも会いたい人の名前を書いてきなよ。きっと叶うよ。でも、この話、願いが叶うまでは誰にも言っちゃダメだよ』


窓の外を見れば、雨が降っていた。

立花さんの喜ぶ顔が頭から離れない。妹を助けてくれたお礼に、願い事を叶えてあげたんだ。それで良かったはずなのに、なんだか心が晴れない。

マジで、俺も初恋拗らせてる。






end

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