ホワイトデーお返し調整会議【男子達の関が原】
 「。若いのに何ば言っとっとだ。なあんでも、早くせんと。」

 島津はそういうと再度親指で、小早川に二ケツを促した。その指の動きが最初の時に比べてやや激しかったので、小早川は「ヤバイ!怒られるかも!」と焦り、社会人にしてママチャリに二人乗りするというハメになった。

 二ケツママチャリの島津隊が北浜にあるビルの裏門から出陣したのが午後10時15分。早くしないと松平部長は帰宅してしまうかも知れない。焦る小早川の気分を察してか、島津はしばらくすると、いわゆる立ちこぎの状態となり西へと急ぎはじめた。
 

島津隊が京阪淀屋橋駅付近にさしかかった時、小早川ケンタの携帯電話が揺れながら鳴った。職場関係の人間用に割り当てられている愛想のないビープ音。その主は、本田次長であった。

 「あ、もしもし、お疲れ様です、小早川です!」

 「あ、も、もし、本田で、」

 「あ、本田次長、お疲れ様です!」

 「、今、いい?、、」

 「はい、何とか。」

 「、、、の、件、合わなくて、部長、、探さなくて、、よ」

 「え!?何ですか?非常に聞き取りにくいンですけど、、、」

 本田次長から電話が遠い。小早川ケンタは片腕を島津の腰に回し、もう片手で携帯電話を持ちながら、本田次長の話に耳を澄ました。どうも本田次長は自分に松平部長を探すなと言っているようだ。あるいは、松平部長を探したが見つからなかったので、ホワイトデーのお返し方法を決めてもらえなかったということにしろ、と命じているようなのだ。

 実はこれが本田次長の秘策、つまり小早川ケンタを一本釣りで寝返らせて、松平部長を探させないという作戦であった。ホワイトデーのお返しはこの際は度外視して、松平部長を、ホワイトデーのお返しに端を発して噴出した、企画室内の課長vs係長の対立に巻き込ませないという、組織の秩序の為の最後の努力であった。
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