ホワイトデーお返し調整会議【男子達の関が原】
そんなトンマな姿勢の小早川をよそに、島津は厳しい表情で目の前の雑居ビルを眺めていた。スナック、「ゴリラ★チョップ」が入っている雑居ビルについにたどり着いたのだ。因みに「ゴリラ★チョップ」が店を構える雑居ビルは、別名「ジャングル・ビル」とも呼ばれ、「ゴリラ★チョップ」以外に、ショーパブ「アナコンダ」やSMクラブ「ジャガーの館」、人材派遣会社「アマゾネス」の事務所や会計事務所の「羽仁会計事務所」など、正にジャングルとも言うべき雑多な業種が混ぜんと同居していた。カオスシティ・大阪を象徴するビルディンと言ってよい。

 「。小早川さん、着きましたよ。」

 小早川は慌てて、自転車をビルの入り口の横の倒した。島津は一人スタスタとビルの入り口に向かっている。

 「島津さぁん、、、薩摩守どの!待ってくださいよぉ~」

 島津と小早川は、隔階でしか止まらないエレベータを使って8階まで昇り、そこでエレベーターを降りて階段を使い「ゴリラ★チョップ」のある9階に向かった。ズンズン進む島津の後を追って、階段を駆け上がる小早川ケンタが、8階の踊り場にさし掛かった時、小早川の両目に一面のキタのネオンが飛び込んできた。

 車が行き交う新御堂筋と無数テールランプ。悪趣味なhepの観覧車のライトアップ。東通り商店街から堂山あたりのいかがわしい店舗の光。この大阪の空の下、今日も、そして明日のホワイトデーも、男子と女子がデートしたり、告白したり、果たせるかな、まぐわったりするんだろうなあ、という感慨が急激に小早川ケンタの心に沸いてきた。

 俺なんで別れたんだろ、、、いわゆる元カノとの切ない過去が去来した。昨日、今日、そして明日。明日のホワイトデーために上司らと自分は何故か必死になっている。ふと、小早川ケンタは人間が愛しく思えた時、何故かその脳裏には本田次長の笑顔が浮かんでいた。

 「。ここか。」

 小早川ケンタがあれこれと感慨に耽っている間に、島津隊はスナック「ゴリラ★チョップ」の入口にたどり着いていた。
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