ホワイトデーお返し調整会議【男子達の関が原】
扉を開けることに躊躇する小早川ケンタに一瞥をくれ、島津は入口のドアノブに大きく節くれだった手をかけた。ガチャ、「ゴリラ★チョップ」の扉が開いた。店内からは酔客の下品な笑い声とホステスの嬌声、そしてエコーのかかり過ぎたカラオケの音が響いてきた。

 「いらっしゃ~い」

 「ゴリラ★チョップ」のママの挨拶にも返事せず、島津は無遠慮に店内を見回した。奥の四人がけのボックス席、その横のレザーディスクの古臭いカラオケセット、手前のやや大きめのボックス席、そしてカウンター、、、

 「。松平、、、!」

 カウンター席に座る小太りの後姿が、かつて見慣れた松平部長のものであることを確認した時、島津は言葉を失った。両手を腰のところで当てたままで、固まって動かない島津の脇の隙間から小早川ケンタが店内を眺めると、カウンター席には松平部長と、なんと企画室の紅一点、今般の騒動の震源地、おトヨその人で座っているではないか!

 しかも二人の肩は触れ合わんばかりの距離で、それはこの二次会の盛り上がりを想像させるにあまりあるものだった。さらにおトヨの手元に目をやった島津と小早川は目を見張った。なんとそこには、愛らしいリボンにくるまれた長方形の箱があるではないか!箱の小ささがかえって高級感を漂わせる、ホワイトデーのお返し、、、。

 中身は貴金属の類だろうか、いずれにしても一日早いお返しと二人だけのホワイトデー・イブである。腰から手が離れ、島津の拳がワナワナと震えいるのに、小早川ケンタが気がついたが、時すでに遅しであった。振り向いて小早川ケンタをブン殴り、島津はうめくように言った。

「マ・ツ・ダイ・ラァァ、、、キサマ、また抜け駆けかあ!!」
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