絵本王子と年上の私
白が自宅に着く頃には、もう日付が変わるぐらいになっていた。
夕食をとっていない事に気づいたが、空腹よりも満たしたいものがあった。
そのため、白はスマホを取り慣れた手つきで、彼女への通話ボタンを押す。
彼女と電話出来るようになるまで、とても長い時間だった。
昔からの片想いを含めたら約10年だ。告白した後もなかなか連絡先を聞けず、半年はうずうずした気持ちで過ごしていた。恋人でもないのに、連絡先を聞きづらかったし、電話で声を聞くなんて夢のような事だった。
だが、今はそれが日常のひとつになっているのだから驚きだった。
電話をかける時も出る時も、白はまだ緊張してしまっていた。
最近は、寝る前に電話をかけるようになっていた。少し前までお互いに緊張していたが、しずくはだいぶ慣れてリラックスしてくれているのがわかった。この前、彼女が電話で話をしながら寝てしまった事があった。
しずくは、朝起きたときに焦った様子で謝り続けていたが、白は内心ではとても嬉しかったのだ。
彼女は、自分に素を見せてくれるようになったなだ。寝てしまうぐらいに気を許してくれたのだ、と。
そんな事を、考えているとコール3回目で、「はい。」という言葉と共に彼女と電話が繋がった。
「夜分遅くにすみません。しずくさん、寝てましたか?」
「ううん。大丈夫だよ。明日休みだからゆっくりしてたところだし、その、、、。」
「、、、?しずくさん?」
何か歯切れの悪い言葉に、白は優しく問いかけるように名前を呼んだ。
すると、一度沈黙があったが、少し音量を抑えた声が聞こえた。
「電話待ってたから。白くんから来るの。」
白はその言葉を頭で理解するのに、数秒かかった気がした。
しずくがこう言った事を白に伝えるのは、あまりないことだった。恥ずかしがりやでもあるし、恋愛経験が少ないからなのか、どうも言葉にしづらいらしい。
白は何でも思ったことを言ってしまう性格だからか、しずくの恥ずかしいという気持ちはよくわからないのが正直なところだった。だか、彼女が照れてしまうのは、時分に好意を持っているからだと思うと、こちらが照れてしまうのだ。
それに、単純にそういったところが、可愛いとも思うのだ。
「、、、あの、白くん?」
恥ずかしい言葉を伝えた後に相手が黙ってしまったので、心配したような声を出すしずく。
「僕はしずくさんの電話なら絶対に出たいです。極力出るようにしますし、電話貰えると僕が嬉しいので、しずくさんが電話したいと思った時に、連絡してください。」
「、、、うん。ありがとう。」
「待ってますね。」
きっと、顔を赤くしているだろう彼女の姿を想像しては、白は嬉しくなった。先ほどの不意討ちの可愛い台詞で白も同じようになったのだから、おあいこだろう。
明日の待ち合わせの場所などを話した後に、そろそろいい時間なので電話を切った方がいいかなーという雰囲気なった時だった。
またもや、しずくが何か言いにくそうに話をしようとしていたのを、感じ取った。
白はしずくの話しやすいタイミングがあると思い、それをじっと待っていると、軽く息を吐いたのを感じた後、「白くん。」と少し真剣な声で彼女に名前を呼ばれた。
「あのね、大学祭が終わった後に、少し時間貰えないかな?あの、お話ししたいことがあって。」
「はい。お食事に誘うつもりでしたし、僕は大丈夫です。ゆっくりお話しするなら、しずくさんのお部屋にいった方がいいですか?」
「え!?えっと、私の部屋はだめ!、、、かな、、、。」
急に焦った声を出した彼女に驚くと、しずく自身もすぐに冷静になり、「あの、落ち着いたところであれば大丈夫だよ。カフェとか、お食事のところでも。」と、返事を返した。
「わかりました。僕も話したいことがあったので、ちょうど良かったです。場所探しておきます。」
その後はぎくしゃくした雰囲気になってしまい、おやすみの挨拶をして電話を切った。
「しずくさん、どうしたのだろう?」
白は、しずくの態度や言葉に少なからず、ショックを受けていた。
部屋に行く事を拒否したのだ。しずくの事だから何か理由があるのだろうとは思うが、今までそんなことはなかった。恥ずかしがりながらも二人きりになれる、空間を喜んでくれていたはずだった。
それに話というのも気になった。
前にキノシタから呼び出された時も、何か話を切り出そうとしてきたのが、白も気になってきたのだ。電話では言えない話なのかと思うと、どうも気になってしまう。
「やっと言える報告があったんだけどな、、、。」
白もずっと内緒にしてきたことをやっと話せる事になったのだが、それよりもしずくの話が気になってしまう。悪い話ではないと信じるしかなかった。
明日も早くに出掛けなければいけない白だったが、今夜は眠れそうになかった。