絵本王子と年上の私



 すると、「キノシタイチサイン会、グッツ販売!!」と書いた看板を持って歩く人が目には行った。人混みでよく見えなかったが、優しそうな男子学生に見えた。
 しずくは、見失わないように看板を目印に人混みの中に駆け込んで男子生徒を追った。

 客引きのため、男子生徒はゆっくりと歩いていたため無事に彼にたどり着いた。

 「あの、すみません。お聞きしたいのですけど。」
 「はい!」

 人混みの中、後ろから肩を軽くたたいて伝えると、その男子生徒は笑顔でこちらを振り返ってくれた。少し切れ長の目は少し鋭く見えたが、人懐っこい笑顔があり、とても爽やかなイメージがある男性だった。しかし、目がいってしまうのは頭の上にある可愛らしいウサ耳だった。
 綺麗な顔立ちにスーツ姿、それなのにふわふわの白いウサ耳というアンバランスさに驚きながらも、なぜか似合っているように感じる。

 「どうしましたか?」
 「あの、すみません。今の場所がわからなくて。地図だとどこらへんが現在地ですか?」
 「えっと、、、ここですね。うちの大学わかりにくいですよねー。」

 パンフレットの地図を指差して親切に教えてくれる男子生徒を「かっこよくて優しいなんてモテるだろうなー。」と心の中でついつい思ってしまう。

 「ありがとうございます。午後にキノシタ先生のグッツ、会にいく予定なんです。楽しみにしてますね。」

 そう伝えると、更に笑顔になって「来てくれるんですねー!」とキラキラした目で嬉しそうにしていた。

 「キノシタ先生のグッツ、どれもよかったので是非!サイン会はなくなってしまったんですけど、、、。あ、お姉さんは絵本王子のサイン会には興味ないですか?」
 「絵本王子?」

 爽やかな男子生徒がそう質問してくれたが、そんな人の事は全く知らなかった。若い人には、人気なのだろうか、、、と思ってしまう。

 「キノシタ先生の弟子の生徒さんなんですけど、かっこいいのでそう呼ばれてるんです。さつきさんっていう絵本作家なんですが、知ってますか?」
 「え!?さつきさんですか?女の人だと思ってました!」

 さつき先生は、しずくもよく知っており好き作家のひとりだった。絵本も数冊持っていて、保育園の子どもたちも大好きだった。名前から、勝手に女の人だと思っていたが、確かに男の人の名前でもあるな、と申し訳ない気持ちになってしまう。

 「さつき先生のサイン会だったら、学生以外の一般の参加券が数枚余っていますよ。」
 
 しずくは、一瞬悩んだが、すぐに「1枚ください。」とお願いしていた。

 さつき先生は、初めてデートしたときに白がとても気に入って購入した絵本の作家だった。
 きっと、白にプレゼントしたら喜ぶだろう。そう思って、サイン会に参加しるのを決めた。


 「ありがとうございます!じゃあ、会場の教室に案内しますね。」

 その男子生徒と話をしながら、会場へと向かう事になった。
 名前は青葉くん。キノシタ先生の作品や技に一目惚れしたらしく、いつも研究室に遊びに行っているそうだ。今回、キノシタ先生からのお願いかわあり、手伝いをすることになったようだった。まだ2年生だが、卒論はキノシタ先生に見てもらうともう決めているそうだった。
 青葉くんの話を聞いていると、あっという間に東館に着いた。3階にあるというので、中に入っていく。外よりは人通りも少なくなって、しずくはほっとした。

 サイン会というイベントに参加したことがないしずくは、今更緊張してきてしまっていた。絵本王子と言われるぐらいなので、きっとかっこいい人なのだろう。そんな人気のある人に会うだから、ドキドキするのは仕方がない。

 それでも、白が喜んでくれる姿を想像してしまうと、頑張ろうと思える。
 廊下にあった鏡で、化粧や服装、そして綺麗にしてもらった髪型をさりげなくチェックする。
 美冬にヘアセットしてもらった事で、少しだけ勇気が出たような気ので、ウサ耳の青葉くんとの距離が少しだけ空いたので、その差を小走りで縮めた。
 しずくの足取りはさっきより軽くなっていた。


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