絵本王子と年上の私
しずくが白との過去を思い出してから、約1ヶ月が過ぎた。
晴れて恋人になった2人はほぼ毎日のように会っていた。もちろん、お互いに仕事が忙しいときや用事がある日は会わない事もある。
だが、時間を見つけては白がしずくの帰宅時間に合わせて迎えに来てくれていた。少し前、彼が告白したときと同じように。
保育士という仕事柄残業が多く、時間より遅くなることもあった。昔は連絡先を交換していなかったので、白を待たせることもあったが、今は前もって伝えるので、彼に迷惑がかかることはなくなっていた。それでも、いつも迎えに来てもらうのは申し訳ないので、どこか屋内で待っていることを進めたが、「あの公園好きなのであそこがいいです。」と言われてしまうのだった。
仕事帰りに夕食を食べ、2人は本屋に寄り道をしていた。
目的は特になったが、共通の趣味である小説や漫画本をぶらぶらと見ていた。
そして、自然と足を運ぶところがもう一つ。絵本コーナーだった。
「あ、見て!!キノシタイチさんのコーナーが出来てるよ。」
絵本コーナーの中心の1番目につく場所にキノシタイチの特集コーナーが設置されていた。
キノシタイチさんのは白としずくにとって、大切な絵本作家だった。白にとっては、自分に夢を与えてくれた存在であったし、二人の深い出会い、きっかけになった物でもあった。
特設コーナーにはその思い出深い、妖精と少年の絵本ももちろん置いてあり、白は自然と手を伸ばしてそれを眺めていた。
「やっぱりいいですね、この絵本。僕の1番好きな本でもあり、憧れの人です。」
「この本持ってるの?」
「もちろんです。ボロボロになるぐらいに読んでます。」
「そうなんだ。私も何回も子どもたちに読んでるからボロボロだよ。」
そんな事を話ながら、ふたりでその絵本のページをめくり、眺めていた。
色鮮やかなでほのぼのとした気分にしてくれる絵本。そして、ストーリー。ふたりも子ども達も大好きなものだった。
「でも、新刊が出たわけじゃないのに、なんで特集が組まれているんだろう?」
「そうですね、、、あ、これじゃないですか?」
白が気づいて指差した先には、大きなポスターが描かれていた。色とりどりの鳥たちが自由に空を飛んでいて、その鳥たちが向かう先には、大きな建物があった。これは、どこかに大学だろうか?
大きく「彩笑祭」と書かれていた。
「こうしょうさい?どこかの文化祭かな?」
「彩翔大学ですね。僕の母校です。」
「え!?そうなの?有名な美大だよね。すごいねー、白くん。」
彩翔大学は、有名な芸術家やデザイナー、ゲーム製作や漫画家などが卒業している大学だった。しずくは、アニメやゲームが好きだったためよく知っているが、一般的にも芸術大としての知名度は高いものだった。
白は、彩り豊かな笑い溢れる文化祭、という意味で彩笑祭と言うらしいと教えてくれた。
そして、そのポスターをよくみるとキノシタイチさんのサイン会やグッツ販売があると書いてあったのだ。
そのため、この本屋では特集が組まれてるようだった。
「キノシタイチさんのグッツかー。すごいねー!気になる。」
「、、、行ってみますか?文化祭。」
「うん!行きたい!」
すぐに、そう返事をする。
しかし、白は何故か苦笑気味に「わかりました。」と返事をするだけだった。
いつもなら、次のデートの予定が決まると、とびきりの笑顔で「楽しみですね!」と、喜んでくれていた。
だが、今回は今まで見たことがない反応だ。
何か予定でもあったのか?それとも、大学に行きたくなったのだろうか?
それからは何かを考え込むように、白は一緒にいてもいつもより反応が遅かった。
でも、しずくと時間を大切にしてくれ、手をしっかり握り笑顔を見せてくれる。
気のせいだったのかとも思ったが、一度に気になった気持ちは、消せなかった。