絵本王子と年上の私
エピローグ
「ん、、、。」
微かな光を感じ、しずくはゆっくりと目を開いた。いつもとは違う天井に、ふわふわの布団。まだ眠たい気もしたが、しずくは寝たままで周りを見ようとしたが、すぐに隣で眠る彼に気づく。
すーすーと寝息をたてて気持ち良さそうに寝ていたのは、もちろん白だ。寝顔は幼く見えるというけれど、白もさらに若く少年のようだった。
白の部屋に泊まったんだと、改めて実感し、一人で照れてしまう。キスだけだったとしても、白が沢山求めてくれたり、強引にキスされたことを思い出すと、顔が熱くなってしまった。
恥ずかしくなりながらも、なかなか見れない白の寝顔をじっとながめる。好きな人が安心して寝てくれる。鼓動や呼吸、体温、彼が側にいてくるとその日の始まりから一緒にいてくれると実感出来るのが幸せでたまらなかった。
しばらく、白の顔を見つめていると、ある事に気づく。白の肌はつるつるしてて、とても綺麗だった。私より美肌だなーなんて、考えていると自分が素っぴんだったことを思い出したのだ。お粉はしていたが、やはり好きな人の前では綺麗にしたい。白が起きる前に少しでも綺麗になろう。そう思って、彼を起こさないようにベットから出ようとした。
その瞬間、白の腕が伸びてきてすぐに捕まり、布団の中に戻されてしまう。
「白くんっ!?起きたの、、、?」
「しずくさん、どこにいくんですか?」
「えっと、、、顔を洗ってお化粧しようかと。」
「僕、しずくさんの素顔好きですよ?」
「そんなお世辞言わないで、、、。」
「本当ですよ。昨日しずくさんが寝てしまったあと、ずっと眺めてましたから。」
「え!?そんなの恥ずかしすぎるよー!」
「それはお互い様ですよ。」
白はそう言ってくれたが、しずくはまだ抵抗があり布団の中に隠れて、目から上だけだして、白を見ていた。そんな様子をみて白は苦笑しながら、「しずくさん。」と名前を呼んだ。
「何か忘れていませんか?」
「え?なんだろう、、、。」
「おはようのキス、です。」
白はその言葉を発しながら、優しくしずくが持っていた布団を剥がしとり、啄むようなキスをひとつした。
「おはようございます。」
「おはよう、白くん。」
朝一番に布団の中で大好きな人と共に目を覚まし、そしておはようのキスをする。誰もが憧れる日常には、幸せの条件があるからだとしずくは知ることが出来た。
それを今、実感できているのだ。
目の前にいる彼と朝を迎えられた事が何よりも幸せだった。少しだけ冷たい唇の感触が、それを教えてくれたのだ。
休みにしては早めに起きてしまったので、ベッドの中で少しの時間ゴロゴロして過ごすことにした2人。その時に、昨日気になったことをしずくは白に質問した。
「白と初めてデートした時に、白は自分の絵本を買ったでしょ?どうして?」
「僕の絵本を読んでいるところを初めて見て、感動したんです。僕の作った絵本を憧れの人が読んでくれてたって。それに、仕事場でのエピソードまで教えてくれて。沢山読んでもらえてるってわかって、絵本をつくって一番嬉しかった瞬間だったので、、、だから、記念に買ったんですよ。」
白はキラキラと輝く目で、嬉しそうに教えてくれた。「今は、作業机においていつでも眺められるようにしてるんです。」とも話してくれた。
知らなかったとはいえ、作者の前で感想を言ってしまったのは恥ずかしくなってしまうが、それでも白自身が喜んでいているのだから、よかった。
「だから、隠し撮りもしちゃったんです。」
「もう、、、それは削除してほしいよ!」
「でも、僕はしずくさんの写真が欲しいんです。」
「じゃあ、写真撮ろう!私も白との写真が欲しいから。」
「、、、、?」
簡単な朝食を食べ、身なりを整えて、二人はリビングのソファーにならんで座る。手には、(今だけは)世界で一つだけのさつき先生の絵本をふたりで持っている。
朝の優しい陽射しが入り、キラキラとした雰囲気で写真を撮る。
絵本を手ににこやかに笑う恋人同士のふたり。
その写真はお互いのスマホの待ち受け画面になり、そして、白が大切に保管していた朽ちたスターチスの花の傍にも飾られたのだった。