絵本王子と年上の私
「それにしても、今日白さんに会えないの残念だったなぁー。」
美冬は焼き鳥を齧りながら、ため息をつきながらそんな言葉を漏らした。
いつもしずくを迎えに来る白の事を知っていた彼女は、突撃で白も居酒屋に誘うつもりだったらしい。会わない方が珍しいので、今日はタイミングは悪かったようだ。
「年下くんだけど、話聞く限りしっかりしてそうだよね。リードしてくれそう。」
「しっかり者だよー。いつも遊びにいくときはいろいろ調べたり予約してくれてるの。」
「いいねー!光哉くんも見習わないとね!」
「俺だってそれぐらいやりますよ!」
美冬にはなぜか敬語になったり、さん付けにしたりと同じ年なのに頭が上がらない光哉。
美冬にとっては、弄りがいのある相手なのかもしれない。
「リードねー。」
なにか考えるように視線を上に向けながら、残りのビールを一気に飲む美冬。
それだけなのに、かっこよくみえるのはやはり彼女が美人だからだろう。そんな呑気な事を考えていると、その綺麗な顔がにやりと微笑んだ。
この表情は危険だと、長年の付き合いでわかっている。その場から逃げたくなるが、それも敵わない。「トイレに、、、。」と言う前に、彼女が話はじめてしまったのだ。
「そういえば、朝は保育園まで送ってくれるの?」
が、美冬の問いは思いがけずに普通の話だった。
何か言いにくい質問でもしてくると思ったが、勘違いだったのだろうか?
だけれど、隣の光哉は何故か苦い顔をしている。
その理由がわからないまま、美冬へ返事をしてしまった。
「朝は別々だよ。夜には帰るし。」
その言葉を、発した途端。美冬の目がキラリと光った。ように見えたのは気のせいではないはずだ。
「お泊まりしないの!?もしかして、手出してこないの?!20代前半の男が!!」
「美冬さん、落ち着いて!声大きいよ!」
「だって、こんな可愛い彼女がいて手を出さないなんておかしいでしょ?」
「それはそうですけど。」
何故か納得してしまう光哉くん。
そして、美冬のこの反応をみて、先程の質問の本当の意味を理解してしまい、一気に恥ずかしくなってしまう。
「そ、そんな事ないよ。そのー、まだ付き合いはじめて1ヶ月だし。キスはたくさんしてるし!」
「、、、だってよー。光哉くん。」
「あいつ、本当に殴りたい。俺なんか1回しかしてないのに。」
「光哉くんっっ!」
あまりの恥ずかしさに、大きめな声を上げてしまう。ついつい自分から話してしまったこととは言えど、こういった話に慣れていないしずくにとっては、ハードルが高かった。
「大切にしてくれてはいるんだろうけどね。白くんの家に行ったりしないの?」
「仕事場でもあって、散らかってるから今は見せたくないみたい。」
「なるほどねー。仕事何してるんだっけ?」
「絵描いてる?みたい?」
「え!?仕事の内容も聞いてないの?」
「、、、うん。」
美冬からいろいろ質問されて気づいてしまった。
自分は白の知らないことが多いという事を。