星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
「嘘。怒ってないよ」
先生にふふっと笑う。
「だからそういうトコ、可愛いって言われるんだよ?」
私がくすくす笑っていると、先生は大きな瞳を伏せて盛大な溜め息を吐いた。
「先生、諦めなよ。先生は何やったってやっぱ可愛いから」
先生は可愛い。
見た目の可愛さ以上に、私は人として可愛いと思っている。
素直で、優しくて、ひたむきで、少年のような情熱を持っている人。
そして。
知ってか知らずかその可愛さで私をドキドキさせる人─
「…南条」
先生が私を呼ぶ。いつもよりトーンが低い。
(え…)
「お前さ、大人おちょくんのもいい加減にしろよ」
やにわに先生が私の左肩をぐいと掴む。
その拍子に私はバランスを崩して背後の壁に寄り掛かる格好になった。
壁際に追い詰められた私の顔の真横で先生が左手を壁に突く。
眼前に先生の鳶色の瞳。
でも、いつも穏やかにキラキラ輝くそれは、今は翳りの中に刺すような鋭い光を帯びて見えた。
(先生、怒ってる…?)
「俺、お前より年上だし、大人だし、それに教師だし?可愛いとか言われんの筋違いだから」
どんなにか私が先生の魅力を『可愛い』と表現したとしても、でもやっぱり年上の大人の男の人、しかも先生に『可愛い』は、ないよね…
そんなこと言わなきゃよかった。
先生は更に、突いた左手を壁に沿って上方にずらし、肘を突いた。
先生の整った顔が、更に近い。
胸を打ち付ける鼓動も激しさを増して、感じたことのないくらいの脈動に目眩がする。
先生の腕の中に捕らえられてどうすることも出来なくて、先生の瞳をただ見つめていた。
綺麗な二重瞼と長い睫毛。
でもその視線は私を咎めるよう。
先生が再び口を開く。
「それに俺、男だし」
先生は私にぐいと身を寄せ、少し掠れた声で耳元に囁く。
「自分の状況分かってる?」
「え…」