星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
暗い瞼の裏を見つめてしばらく時が経った。
長く感じられたけれど、本当は数秒だったのかもしれない。
不意に眼の前が明るくなる。
私は恐る恐るゆっくりと眼を開けた。
先生は壁から離した手をポケットに入れ、私から少し距離を取って正面から私を見遣っていた。
「嘘。んなわけないだろ」
先生がにやりとする。
いたずらっ子みたいに。
(え…)
「分かんないよなぁ。お嬢さん学校育ちのお子様には。
俺だから良かったけどさ、あんまり男、可愛いとか思ってんなよ?
お前みたいなお嬢、大学なんか入ったらあっという間に悪い男に喰われるぞ」
そう言って先生は落ちたメモを拾って私の手の中に押し込み、それからくるりと背を向けてデスクの上を片付け始める。
先生のグレーのパーカーの背中が不意にぼやける。
私、泣いてるの…?
なんでだろう?
怖いの?寂しいの?切ないの?
モザイクみたいに複雑で自分でも捉えどころのない気持ち…
思わず私は先生の背中に抱き付いた。
先生が驚いて振り返る。
「ごめん!怖かったか?」
怖かったわけじゃない、多分。
名前の付けられないこの感じ。
なんだろう?
自分さえも分からない、ただ胸の奥がきゅっと痛くて苦しくなる感じ…
込み上げた涙が瞳に滲んで、私は先生のパーカーのフードに額を押し当てた。
先生のお腹に廻した私の手を先生が握ってくれる。
先生はしばらくそのままそうしててくれた。