星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
準備室に時計の針の音だけが響く。
やがて少しずつ気持ちが落ち着いてきて、私はそっと先生から額を離す。
「ごめん…冗談が過ぎた」
「うぅん…そうじゃないの」
「じゃあ…悪い男に、なんて、脅し過ぎた」
先生が私の腕をそっと解き、こちらに向き直る。
そして私の頭にふわりと掌を置いて、顔を覗き込んだ。
いつもの優しく煌めく瞳。
「大丈夫、南条は。
大学行ってからも俺がちゃんと…」
そこまで言って先生の唇が止まる。
「先生?」
先生がふふっと笑う。
そして少しだけ私の耳元に顔を寄せて言った。
「今度可愛いって言ったらホントに襲うぞ?」
「!!」
先生はあははっと笑い、私の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「なんて、お前にそんなこと出来るわけねぇだろ」
「え…?」
先生は自分のデスクのバッグを肩に背負うと明るい声で
「さ、帰るぞ!」
と言ってドアに向かう。
「あっ、待って!私まだコート着てない!」
私は慌てて大切なメモをポケットに入れ、机の上のコートとバッグを引っ掴み、先生の後を追って準備室を出る。
最近私、先生のことが分からないよ?
先生は私を『妹』だって言ってくれる。
けど。
言いかけてやめる意味深な台詞も、いやに密接なアプローチも、壁に追い詰めて言う脅し文句も、全部全部、勝手な期待をしてしまいそうになるよ…