星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
先生が瞳を伏せる。
長い睫毛に縁取られたそれはどこか切なげに見えた。
「ごめん…つい。
こんなこと言うつもりじゃなかったんだけど…」
「先生…
先生私のこと…」
私のこと、好きですか?─
心臓がうるさいほど脈動する。
ねぇ先生?
私のこと、好きですか?─
言いかけた唇に先生の人差し指が触れる。
「!!」
「もうこの話は終わり。
ほら、問題集早く出して!シェイクも溶けるよ!!」
先生はいつもの調子で微笑んで言うと、急かすようにテーブルをコツコツと叩く。
「あ…はい…」
先生がコートとマフラーを脱いで椅子に掛けている間、私はそっと自分の唇に触れる。
先生の長くしなやかな指が触れた感覚が蘇り、頬が熱を帯びる。
『大人になってゆく姿をこれから先、遠い未来もずっと傍で見てられるわけじゃないだろ?
俺はそんなの…嫌だから』
ねぇ先生?どういう意味…?
「ほら南条、早く」
「あ…はい」
コートを脱いで奥のベンチシートに座る。
先生は眼の前にいるのに、訊けない。
きっとこのことは訊かない方がいいんだ。
そう直感する。
『私のこと、好きですか?』
訊いてしまったら今のままいられなくなる。
先生の優しさに守られているこの平穏で実り多い日々が終ってしまう。
そんな気がした。
* * *