星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

 先生が慌てたように椅子の背に掛けた自分のマフラーを取り上げ、ふわりと私の首元に巻いた。


「えっ?何!?」

「お前…ちょっと周りの目線とか考えろ…」


 先生が口元を手で覆ってあからさまに横を向いた。


「えっ!…あ!」

 私は姿勢を正してニットワンピのVネックの胸元に両手を重ねる。

(やだ!中見えちゃってた!?)


「違…っ!俺じゃないっ!
 だから!その…周り見ろって」

 先生が隣のテーブルをちらりと見る。

 それから深い溜め息をひとつ吐き、栗毛の髪をくしゃくしゃと掻いた。


「南条のこと…誰かにそういう目で見られたくないわけ。分かる?

 ったく。ついでに言うとお前、制服のスカートももっと長くした方がいいってずっと前から思ってるから。駅の階段とかあれで上り下りしてるの気が気じゃねぇんだけど」


 先生がお説教を始める。

 お説教なのに『南条のことそういう目で見られたくない』とか…
 何か大切にされてるのかな…なんて勝手に思ったりして。


「ふふっ」

「笑い事じゃねぇし!」

「ごめんなさーい」

 私がぺろっと舌を出すと、先生がもう一度溜め息を吐く。


「先生、マフラーあったかい…」

 マフラーに顔を埋める。


「…貸してやるから。巻いとけ」


 先生は空になっているカップの縁を忙しなくなぞりながら、素っ気ない感じに言った。

           *
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