星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

 先生と歩く帰り道。


「ひとりで帰れるよ」

と言ったけれど、先生は家の傍まで送ってくれた。


 私の首には先生のマフラー。
 ふんわりしたカシミア製で、グレーの濃淡で英国風のクラシカルな柄が編み込んである。


 直ぐに自宅が見えてくる。


「先生。今日もありがとう」

 どちらからともなく立ち止まる。


「いや…
 あの、なんか…ごめんな。余計なこと言った」

「…うぅん」



『『妹』っての、やめてもいいか?』

 そんなこと言うのに、

『俺はそんなの…嫌だから』


 先生の言葉と瞳の中の真剣な光が脳裏にリプレイする。


(先生、何考えてるの…?)



『私のこと、好きですか?』


 私は先生のこと…好きです…

 溢れる想いが言葉になって唇から零れそうになる。



「南条?」

「!」

 先生に呼び掛けられて、いつの間にかぼんやり耽っていたことに気付く。


 見上げた先生の瞳に黄昏のほんのり朱鷺色掛かった光が映る。


「…先生、私…」


 私が口を開くと、朱鷺色が少し困ったように揺らいで翳る。


(あ…)


『私のこと、好きですか?』

 今は先生とこうして一緒にいたい─


 でも、もしも、もしも万一本当に先生が私を生徒以上に、妹以上に想ってくれてたとしたら…
 それを知ってしまったら今のままでいられなくなる。

 それは、こんな風にふたりで過ごす幸せな時間が失われてしまうだけじゃなくて、始業式の日に応接室に呼び出された時みたいに先生にもいっぱいいっぱい迷惑がかかってしまう。


 とは言えそれはもちろんもしもの話、万一の話で、実際のところは先生が私みたいな生徒にそれ以上の気持ちなんて持ってくれるわけなくて。
 だったら余計そんな気まずくなることわざわざ訊く必要もなくて…


 もう考えるのはやめよう。

 それよりも…


『南条のことそういう目で見られたくないわけ』


 生徒としてでも、妹としてでもいい。

 先生の傍にいられること。先生に大切にされていること。

 それが今の私の全て。


 私に未来をくれた人。
 ただ先生の傍にいたい、離したくない─
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