星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
「で、校内で迷っちゃったわけ?」
カウンターの俺の隣に座る宇都宮先生が腹を抱えて笑う。
学校帰りのある夜。
俺は英語科の先輩教師の宇都宮先生に誘われて、学校から2駅のターミナル駅近くにある雑居ビルの地下の店にいた。
そこは年配の常連客みたいな人ばかりが出入りするクラシカルな飲み屋だが、宇都宮先生の行きつけなのだと言う。
なぜこの店なのか訊いてみたところ、
「こういう店なら卒業生に鉢合わせすることがないから」
なのだそうだ。
(流石ベテランは考え方が違うな…)
仕事以外でも見倣うことは多そうだ。
「笑いごっちゃないすよ…」
「確かに視聴覚室は分かりにくいけどな。で、どうしたの?」
「…生徒に訊きました」
先生が更に大笑いする。
「まぁいいんじゃない?初原君なら。見た目で得してるし」
「得してません!むしろそれ傷付きますから!!」
「そうか?何かやらかしても『可愛いからしょうがない』で済んだらラッキーじゃない?」
「やらかしちゃダメでしょう!」
息巻く俺を先生がまた笑う。
「あんまり真面目に考えるな。先は長いぞ」
そう言って先生は俺の背中をぽんと叩く。
俺は溜め息をひとつ吐いて、ジョッキの底に残ったビールを一息に煽った。
* * *