星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
あれは確か雨がぱらつく日だったから、中間試験が終わった梅雨の頃の放課後のことだった。
英語教室から準備室の扉を開けて中に入ろうとした俺は、足元の『何か』に蹴躓いた。
「うわ…」
「キャッ!」
『何か』が悲鳴を上げる。
(人?)
慌てて体制を立て直すと、辛うじてその人を踏まずに済んだが、傍に積まれたDVDの山を蹴り飛ばした。
DVDはガシャンと音を立て、バラバラに散らばる。
「あ!ごめん!」
うずくまるその人にすぐさま寄り添う。
(映研の南条さんだ)
映画研究部の高校3年生で、話したことはないが顔見知りの生徒だった。
「大丈夫だった?南条さん」
「先生、私の名前…知ってるの?」
その人─南条舞奈は甚だ驚いた顔をした。
「映研の南条さん、でしょ?怪我はない?」
「…はい」
「ごめんな、蹴飛ばしちゃって」
俺がDVDケースを拾い集めると、南条がそれを順番に並べる。
「一番上?」
棚の上段にしまおうと立ち上がって手を伸ばすと、
「先生、届きます?」
と南条が言った。
「失礼だなー。届くよ」
どんだけ小さいと思ってんの?
机の上にはまだたくさんのDVDのケースが散乱している。どうやら南条が片付けてくれていたようだ。
「片付けてくれてるの?手伝うよ」
俺が言うと、意外にも南条は
「いいです」
と応える。
「なんで?」
「だって先生、忙しいでしょ?」
「忙しいは忙しいけど、でもそれ、授業の備品でしょ?」
「けど先生新人だからやること多いんじゃない?」
もしかして、舐めてる?
「君も俺を可愛い扱いか?」
そんな俺に南条はにやりと笑って言う。
「だって先生実際可愛いもん…」
(…またそれ?)
大人げないとは思いつつも毎度のことに小さく苛立つ俺の表情を南条は見逃さなかった。
「そういう顔するから中学生からまで「カワイー!」とか言われるんです。
正直、先生自分の見た目が可愛い系なの分かってて意識してやってんじゃないの?って見えますよ?可愛い弟キャラ狙ってるようにしか見えない」
立ち上がり腕を組む南条。
俺より10cm近く小柄なのに見下ろされている気分になる。
(なんで俺ここまで言われてんの?)
無意識に眉間に皺が寄り、溜め息が出る。