星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
合宿が終わると、またいつもの日常が還ってくる。
と言っても生徒達は夏休み。
俺はゆるゆると新任研修や2学期に向けての授業の準備をして毎日を過ごす。
(12時廻ったな)
英語準備室で仕事をしていた俺は、昼食を摂りに職員室に戻ることにした。
窓から見えるグラウンドは熱風に煽られて砂埃が立つ。
「暑そ…」
そう思いながらも俺は何となく校舎内の廊下を抜けず、準備室脇の非常階段から外に出て職員室に向かうルートを選んだ。
案の定外は人をも溶かしそうな熱気。一瞬にして汗が吹き出す。砂埃の上に更に陽炎が立つ。
あまりの暑さに加え、昼休みということも手伝ってグラウンドに人影はない。
職員室のある校舎へはグラウンドの周りを半周する形の通路を通って行く。
その半ばにはグラウンドに降りる階段があり、すく傍に欅の大木が立ち、砂漠の中の唯一のオアシスのように瑞々しく葉陰を落としている。
(あ…)
階段の脇の石垣の木陰に制服姿の生徒がひとり座っているのに俺は気付いた。
石垣から下に足を投げ出してぷらぷらさせている。
長い髪が邪魔をして後ろからでは顔ははっきりとは分からない。
けど。
(南条…かな?)
と俺は思った。
そう、思ったんだ。
思いはしたけれど、俺は声を掛けることもなくその後ろを通り過ぎた。