星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

 ある日。
 この日もいつものように激しく熱い日だった。
 そして俺もまたいつものように南条の後ろ姿を眼の端に見ながら職員室に向かっていた。


(今日もいるな)


 今日もどうせチョコパンとミルクティーなんだろうな…

 そんなことを思いつつ南条の後ろを通り過ぎようとした時、南条が両手で顔を覆い項垂れた。
 膝に肘を突き、がくりと頭を垂れる。


(え…熱中症か?)


「何してんだ、そんなとこで?」

 思った瞬間にはもう声を掛けていた。


 南条が振り向く。


「先生は何してんですか?」


(体調悪いわけじゃなさそうだな)

 南条のきりりとした口調と視線に安堵する。


「俺?俺は仕事だよ。お前らは夏休みでも俺は毎日学校来てんの」

「私も夏休みなんてありません。受験生ですから。学校も毎日来てます」

「んー素晴らしいね」


 他愛ない会話だった。

 そして俺はその延長くらいの軽い気持ちで訊ねただけだった。


「南条はどこの大学受けるんだ?」


 が、思いがけずその問いが空気を壊す。


「国大…」

「へー。優秀じゃん」

「…行く気ないけど」

「え?志望校でしょ?」

「親のね」


(え…?)


「じゃあ…南条が行きたい学校はどこ?」

「んー…ないかな?」

「ないの?」

「…うん」


 更に続く南条の言葉は意外なものだった。


「国大も親の希望で受けるけど、上手いことギリギリで落ちるつもり。そのくらいのテクニックができるくらい国大の模試も点数良いし」


 俺はようやく南条のあの大人びた冷めた憂いの正体が掴めた気がした。


 あぁ、君は『良い子』過ぎたんだ。

 期待に応えることが当たり前過ぎて、抗うことも疑問を感じることも教えられずに生きてきたんだ。


 そして、誰かに頼ることさえも君は知らないままずっと耐えてきたんだね。

 頼っていいよ。

 誰を?

 例えば…


 俺…だったり…
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