星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
「与えられた等式の左辺を虚数単位iについて整理すると─」
コツコツと黒板に向かいチョークを走らせていた先生がこちらを振り返る。
「ここはどうなるか?今日は誰か聞いてみようか?」
そう言った先生と不意に眼が合う。
「そのセーラー服、菊花女学院?」
訊ねられ、私はこくりと頷く。
「ここの塾に菊花の子が来てるの珍しいね。じゃあこれ、君に聞こうか。えーと、君、名前は?」
「南条です」
「じゃ南条、ここに当てはまる式は?」
「はい。え、と…x+4y=-2と…2x+3y=1」
「正解。ここで重要なのは係数が実数であって初めて相当条件が成立することで─」
急にあたると思わなかったからびっくりした…
けれど特に何ということもなく、初めての授業は淡々と終わった。
終わると直ぐに先生は教室を出ていき、生徒たちも銘々動き出す。
私もペンケースを片付け、テキストとノートを重ねてバッグにしまっていた。
すると不意に眼の前が陰った。
(?)
私の机の脇に人影が立っている。
見上げるとそれは先程の紅茶色の髪の男の子だった。
「…?」
言葉も出ずぱちくりと瞬きして、男の子の顔を見上げたまま沈黙する。
(何…?)
「お前さ、」
それを破ったのは彼だった。
「東小出身じゃね?」
「え…」
「東小の南条舞奈」
「!!」
なんで私のこと知ってるの?
名前に、出身小学校まで…
疑問を口にしようとしたが、それを遮るように先に彼が訊ねた。
「俺、誰か分かる?」