星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
紅茶色の髪の背の高い男の子─
着崩した紺色のブレザーとゆるっと締めた臙脂のストライプのネクタイはおそらく県立西高校のもの。
切れ長の眼、薄い唇、鼻筋の通った大人っぽくシャープな印象の顔立ち。
「…ごめんなさい」
多分会ったことない…と思うのだけど…
「分かんないの?」
「……」
分かんないも何も初めて会った、はず…
応えに窮して口籠っていると
「はぁ…」
彼は不機嫌に溜め息を吐いた。
「清瀬優翔。小学校、ずっと一緒のクラスだったんだけど?」
「…ごめんなさい」
今度は名前を聞いても思い出せない失礼を詫びた。
「ユウトぉ!」
その時、先程の華やかな一団が教室に入ってきた。
「帰ろうよー」
「なぁ、マック寄ってくだろ?」
彼等が清瀬くんを取り囲む。
「あー悪ぃ、先行ってて」
「えっ?なんで?」
「俺コイツと話あるし」
清瀬くんが親指で私を指した。
「!?」
彼等が一斉に私を見る。
「誰?」
「6年ぶりの幼馴染み。
で俺、コイツの初めての男」
「はぁっ!?」
驚く私に相反して、一団はどっと笑った。
「うゎ。ユウト、サイテー!」
「ガキの頃からマジヤバいんだけどぉ」
「女遊びも大概にしとけよー」
彼等はころころと笑いながら
「じゃーねーユウト」
「頑張れよ!」
等と言いながら教室を出て行く。
私は清瀬くんに詰め寄った。
「ちょっと、どういうことよ!適当なこと言わないで!!」
「あー間違えた」
「はっ!?」
「俺お前の初めての『男友達』の間違えだった」
「なっ…!?」
さらりと適当なことを言う清瀬くんに苛つかせられる。
が、当の清瀬くんは涼しい顔をしている。
「なぁ。次の授業始まるけど?ここ出た方がいいんじゃないの?」
そう言って清瀬くんは私の腕を掴んで椅子から引き立てた。
「いっ!言われなくても帰ります!」
清瀬くんの手を振り払うと、コートを羽織りながらドアに向かう。
その後ろを清瀬くんが付いてくる。
「まだ何か?」
「いや、俺も帰るから」
「……」
私はぐっと歯噛みして清瀬くんを睨むと、廊下を小走りで抜けた。