星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

「なぁ舞奈」

 清瀬くんがもう一度呼んだ。


「覚えてない?6年の夏の天体観測会のこと」

「天体観測会?」

「お前に告白した」

「!!」

「気になる?」


 そう言うと清瀬くんは通りがかった児童公園に入って行く。
 私もそれを追い、ブランコに腰掛けた清瀬くんに倣って隣のブランコに座った。


「まぁ何てことない話だよ。流星群が来ててさ、めっちゃ綺麗で思わず勢いでお前に告って。
 で、あっさり撃沈、って話」


 清瀬くんはこちらに向かってはにかむように微笑む。
 その表情は大人っぽい顔立ちが少し幼く見えた。


 清瀬くんのどこか切なげな微笑みは、記憶にないこととは言え、それは私のせいなのだと思うと申し訳なくなる。


「なぁ舞奈、やっぱ俺と付き合ってよ」

「……」

 無意識に奥歯を噛み締める。


「…無理」

「なんで?俺そんなに嫌われるタイプじゃないと思ってるけど?」

「…好きな人がいるの」

「片想い、てこと?」


 私が小さく頷くと清瀬くんがブランコから立ち上がった。
 ブランコがキシキシと鎖を鳴らして揺れる。

 そして清瀬くんは私の後ろに回り込むと私を背中から抱き締めた。


「!!」


 引き離そうとするけれど、清瀬くんはびくともしない。


「清瀬くんっ!」


「ソイツ、お前のこと好きなの?」


「!…そんなの分かんないよ!」


『先生私のこと、好きですか?』─


 ほんの少し期待して訊いてみたかった台詞。
 でも訊けなかった台詞。

 先生が私のことを好きだなんて、そんな夢みたいなこときっとない。
 でも本当のところの先生の気持ちがつまびらかになることは決してない。


 だって─


「ソイツ、お前のこと好きって言えんの?」

「!!」


 だって…

 もしも、もしも万に一つでも先生が私を特別に思ってくれていたとしても、きっとそれは声に出すことは出来ないことで。許されないことで。

 だからそれを私が聞くことは絶対にないから─


 私は清瀬くんに何と返していいか分からずに迷って、視線が泳ぐ。


「俺なら舞奈のこと幸せにできる自信あるけど?」


 清瀬くんが囁く。


 その言葉の裏の意味は?

『先生を好きでも幸せになれない』ってこと?
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