星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 宿舎の玄関に着く。

 西の空には黄金色に夕陽が瞬くけれど、頭上はまだ高く青みが残る。
 その夏空を惜しむように、私たちは玄関をくぐらず近くのベンチに腰を下ろす。

 少し受験のことを話し、それからいつの間にか最近二人して唯一見ているお気に入りのドラマの話に移っていた。


 ふと話が途切れた時、


「なんで舞奈映研入ろうと思ったの?」


と、揺花が思い立ったように訊いた。


 ふと先生の綺麗な顔と甘い声が頭を過り、思わず胸がどきんと鳴る。


「舞奈、実は指定校推薦なんて狙ってないよね」


 そりゃバレるよね。

 そういう話をしたんだもん…


「そういう揺花はなんで入ったの?」

 話をすり替えたくて私は言った。


「私?海外映画で英語のスキルアップ狙いだよ」

 可愛らしい揺花が花のように微笑む。


 それはいつも揺花が言っていたことで知っている。
 そしてそのセリフを言う時、いつもこの最高の作り笑顔をすることも。


 いつもは突っ込まないところを今日は敢えて斬り込んでみる。


「本音は宇都宮が好きだから、じゃない?」


「…何言ってるの?違うって」


 揺花は高1の時に映研に入部した。

 当時から揺花は私を含めて周りに『英語のスキルアップのため』とそれを説明していた。


 でも、一部の同級生の間では

『揺花は顧問の宇都宮が好きで入部した』

と噂されて、それを揺花は酷く嫌がっていた。


 揺花が嫌がっていることも分かっていて、今日はそれを敢えて口にした。
 夏休みの合宿の解放感?
 自分の話を誤魔化したいというのもあったけれど、『教師に恋する』という云わば禁忌を侵す揺花の本心を聞いてみたいと今日は思った。
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