星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
「じゃ南条さんまたね!」
「うん。バイバイ」
同じクラスの委員の子と廊下で別れ、私は誰も居なくなった廊下で再びスマホを取り出す。
『今終わったよ。これから帰るね!』
送信ボタンを押したところで、
パン!
「!」
頭の天辺に軽い衝撃を受ける。
振り返るとそこには、いつの間にか私の頭上にテキストを掲げる先生がいた。
「せんせ…」
「ほら、スマホ。校内では禁止だよ。しまってしまって」
「あ…」
私は慌ててそれをバッグの外ポケットに押し込む。
「珍しいね、こんなとこで。何?委員会?」
「…うん」
ちょっと…気まずい。
「このあと来る?準備室」
先生の問いに頭《かぶり》を振る。
「用事、あって」
「…そっか」
少し開いた窓から冷たい空気が流れ込んでくる。
それと共に先生との間にひやりとした間が流れる。
帰ります、と言いかけた時、
「この間の、彼氏?」
先に口を開いたのは先生だった。
胸がどきりと嫌な音をたてる。
何と応えていいか分からなくて口籠っていると、ふっ、と先生が小さく笑う。
「南条は誤魔化すの下手だな」
いつもと変わらない先生の声。
その穏やかさに胸が疼く。
そりゃそうだよ。
私に彼氏がいたって、先生には取るに足らないことなんだから…
「受験生なんだからあんまり羽目外すなよ」
「…はい」
「……」
先生は溜め息混じりに窓の外に眼を遣る。
冬の夕暮れはあっと言う間に夜を連れてくる。既に天頂は暗く清んで、ますます切なさを際立たせる。
「出来ればそういうのは今は…慎んで欲しいかな」
「……」
「分からないことは何でも聞いてもらっていいから勉強に集中して欲しい」
先生は空の闇を映して黒曜石のような瞳を一度伏せ、それからゆっくりと私を見る。
美しい視線に見据えられて私の胸は嫌でも高鳴ってしまう。
(先生…)
そんな眼を向けられたら、諦められなくなるよ。
やっぱり先生のこと…好きだと思っちゃうよ。
「私…行きますね」
先生の視線が苦しくて、私は俯いて肩に掛けたバッグの持ち手を握り直した。
「…彼氏に会うの?」
突然の先生の言葉に、進み掛けた歩が止まる。
と同時に先生の掌が私の腕を掴む。
「!」