星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

「でも宇都宮のことは好きでしょ?」


 宇都宮は揺花と私が中1の時の担任で、その後も中学の3年間、私たちの学年の英語を担当していた。

 年齢は30歳前後。銀縁の眼鏡が印象的なスマートなインテリタイプ。


 揺花が好きになったのが先か、入部したのが先かは分からない。でも、揺花が宇都宮を見る眼、話す時の態度、そんなものをずっと見てきたから宇都宮を好きなことは間違いないと確信していた。


「…いつ気付いたの?」


 諦めて揺花が溜め息混じりに重い口を開く。


「いつかな?なんとなく」

 夕空を見上げながら続けて尋ねる。

「告白するの?」


 私の言葉に揺花は首を振る。

 揺花のくるんと毛先が巻いた癖っ毛がふわふわと揺れた。


「卒業する時には?」


 揺花はもう一度首を振る。そして、


「先生には私なんかよりもっと素敵な大人の女の人が似合うと思ってる」


 揺花は切なそうに微笑むと俯いた。


「女の私から見ても憧れるような素敵な女の人。
 そういう人と一緒になって、幸せになってくれたらいいな、と思ってるの。


 私ね、先生が幸せでいてくれることを何より願ってるんだ。

 私は先生のこと好きだけど…先生のために、先生が幸せでいるために出来ること、他に何もないから…」


「見てるだけなんだ?」


 自分のサンダルの足元を見ながら揺花が頷く。


「そういうもの?」

「そういうもの。

 だって…先生に迷惑かけたくない」

「迷惑かな?」

「先生と生徒だもん」

「そっか…」


 先生と私も先生と生徒だけど、迷惑かどうかなんて考えたこともなかった。


 そもそも私が先生にどうしたいのか、先生とどうなりたいのか、そんなことも考えたことないと思う。

 この夏合宿だって、ただ先生の傍にいたい、先生を見ていたいと思って来ただけだった。


 空に一番星が輝く。
 私と揺花の間に海風が吹いた。
 風が、今日は珍しくポニーテールに束ねた首筋を撫でて心地良い。


「戻ろ?暗くなってきた」

 そう言って揺花が立ち上がる。


「うん」


 私たちは玄関の引き戸を開けた。

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