星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 宇都宮先生にとって神川は『娘』。


 じゃあ、俺にとって南条は─?


 テーブルに頬杖を突いて口の中で枝豆を転がしながらぼんやり考えていると、

「なーに考えてんの?」

と向かいに座るにっしゃんが顔を覗き込む。


「別に何も」

 なるべく顔に出さないように無機質に応える。


 が、にっしゃんは

「ふーん…」

と言ってニヤニヤ俺を見ている。

「南条のこと?」


「!…なわけないだろ」

「いやいや。とか言って実際は『俺が恋の進路指導してやるよ!』とか言ってたりして?」

「は!?何そのセンスない台詞」


(全くコイツは…人の心に土足で踏み込むような真似をする…)


 大丈夫、南条とは何もない。

 進路指導して宥めただけ。

 コイツに俺の本音は見透かすことは出来ない。

 大丈夫…


「そう言うにっしゃんこそ『可愛い子結構いるよ?』とか言ってよっぽどロリコン趣味だよね?」

 つい嫌味がぽろっと零れる。


「俺?俺の好みは豊島先生だから。」

「産休中の?人妻だししかも妊婦じゃん!それはそれで問題でしょ」

「美しい人はいつ何時も美しいんだよ」

「馬鹿じゃないの?その挙げ句豊島先生の妹とかに手ぇ出さないでよ?」

「え!?」

「あ、初原…」

 宇都宮先生が唇に人指し指を当てて見せる。


(あ、しまった…)


 豊島先生の妹はうちの高校の2年にいる。にっしゃんはその存在を知らなかったようだ。

 言わなきゃ良かったと思うも時既に遅しで…


「えっ!うちの生徒なの!?誰!?豊島先生に似てる!?」

 にっしゃんが眼をキラキラさせて阿呆みたいに食い付く。


「はいはい、もうそこまで」

 宇都宮先生が掴みかからんばかりのにっしゃんと俺の間に割って入る。


「宇都宮先生、止めるんだったらもうちょっと早く止めて下さいよ」

「ははは、悪ぃ。見てたら結構面白くって」

「面白いって…」

          *
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