星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
「舞奈まだー?」
「あ…」
清瀬くんの声に我に帰る。
「ごめん、もうちょっと!」
急いでやりかけの問題を終わらせると、机の上を片付けてコートとマフラー、それから手袋を身に付けた。
「お待たせ。行こう」
自習室から出ると清瀬くんが大きく伸びをして言う。
「やっぱこれデートじゃねぇな。舞奈と全っ然話せねぇし」
「しょうがないよ。受験生だもん、私たち」
「あーもう!早く大学受かんねーかなー」
「ふふっ」
塾の建物から外に出ると途端に北風が頬を打つ。
「寒っ!」
「なぁ舞奈、手袋外したら?」
「なんでっ!?寒いじゃん!」
「手繋げねぇじゃん。繋いだ方があったかいだろ?」
清瀬くんが左手を差し出してくる。
私は右手の手袋を取って彼の手を握る。
そして清瀬くんはいつものように指を絡めて手を繋ぎ直す。
「んー、やっぱり手の甲が寒い」
「贅沢言うな。マフラーしてんだからいいじゃん」
「マフラーと手袋は別物だよ!」
「そのマフラー、可愛いしいいじゃん。」
「可愛くても関係ないの!」
ピンクのギンガムチェックのマフラーは中学生の頃から通学にも使っているお気に入り。
最近ちょっと子供っぽいかな、とは思っているけど。
ファミレスに向かって、いつもは駅へと直進する交差点を右に曲がる。
その道は商店街の真っ只中で、飲食店も多く日曜の夜も賑わっていた。
人通りの多い中を清瀬くんに身を寄せ、すり抜けるように歩く。
人波の中でふと誰かの話し声が聞こえる。
「やっぱ芸術に触れると腹減んだよ」
「何言ってんの。爆睡してたくせに」
そのどこか懐かしさを誘う声に、無意識にそちらへと眼を向けた。
そして私は思わず足を止める。
「あ…」
その瞬間、眼に映るもの全てがスローモーションになった。
そして、どんなに街が沢山の人で溢れていても、本当に逢いたい人はそこだけが灯りを灯したように眼に付いてしまうということを、その時私は知った。
そう。
そこにいたのは
初原先生だった。