星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 バッグの中でスマホが短く振動するのを感じた。
 ラインの新着を知らせるバイブレーション。きっと清瀬くんだ。

 でも私はスマホを確認する気がなくて、地上に眼を落としたまま項垂れる。


 冷たい風が空に唸ってデッキの上を走り、私に吹き付けた。


「寒…」

 髪とマフラーが寒風に煽られた時、


「…条!南条!」


 風の音に紛れて私を呼ぶ声にはっとした。

 階段の下にこちらを見上げる先生の姿が見える。


「!!」


 先生が階段を駆け上ってくる。


(どうしよう…)


 先生が私を見つけてくれたことが嬉しいのに…

 それ以上に逃げてきた自分が恥ずかしくて、そんな私を探してくれたことが先生に申し訳なくて、居た堪れない。


 私は先生とは反対側のバスターミナルの方へ向かって走り出した。

 上り下りする人でごった返すバスターミナルに降りる階段を避けて通り過ぎると、途端に人気が少なくなった。


(こっちに走ってきたの、間違いだったな…)


 人混みを避けたことで身を隠す術もなくなってしまった。
 走りやすくもなったものの、それは追ってくる先生にとっても同じで。

 必死に駆けるけれども、空中庭園まで来たところで後ろから腕を掴まれてしまう。


「南条!」


 先生にぐいと右の手を引かれ、已む無く足を止める。


「はぁ…はぁ…」

 私は俯いたまま肩で息をする。

 息が上がって苦しいだけじゃなくて、込み上げてくるような胸苦しさ。


 手袋を外していてすっかりかじかんでしまった私の手を掴む先生の掌があったかくて。

 その温かさに溶かされて小さくなった氷をうっかり飲み込んでしまったみたいに、胸の奥で何かがきゅっと詰まったように苦しかった。


 それをゆっくり溶かすように時間をかけてようやく呼吸が整うと、待っていたように先生が静かに言った。



「南条…ごめん」

「……」


 上気した頬を冷たい空気が撫でる。


『ごめん』なんて、その言葉の意味は…?
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