星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

「それは…『好きでもないのにキスしてごめん』、って意味?」


「…!違っ…」


「じゃなかったら、なかったことにしてくれって意味?」


「そうじゃない!」



 そんな言い方ではますます先生が遠ざかってしまうのに、一度溢れ出した言葉はまるで流水のように塞き止めることが出来なくなる。


「先生にはなかったことにしたいようなつまらないことでも…私にとっては…

 初めての…キスだったの…」


「……」


「私にとっては…

 大好きな人との…キスだったの…」


「え…?」


「……」


「南、条…?」


「ねぇ、先生…

 先生は私のこと、好きですか?


 私は…


 私は先生のこと…」


「南条!!」


 私は先生のこと…


 好きです─



 掴まれていた手を突然思い切り引かれ、私は倒れ込むように先生に抱き留められた。

 先生は温かい掌で私の頭を掻き撫でるように強く抱き寄せ、私は先生の腕の中に溺れるように抱きすくめられる。
 先生の胸に口を塞がれて、結局言いかけた言葉も否応なく止まる。


(先生…なんで…?)


 再びどんどんと早くなる鼓動。


 でも。

 私を抱き締める先生の胸から響くそれも同じビートで。


 その心音。
 そして、腕や胸から伝わる体温と愛おしいもののように私の頭を撫でる先生の掌の優しい感触。

 それらを感じていると、次第に心地好く落ち着いていく。


 そして落ち着いていくに従って、空に懸かる靄が晴れていくみたいにようやく気付く。


 どうして私にキスしたの?

 どうして私を探してまで追いかけたの?

 どうして『ごめん』なんて言うの?

 どうして私を抱き締めるの?


 その問いの応えに。

 先生の想いに─
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