星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 翌日。


 ギラギラと太陽が陽炎を立てる猛暑日。

 夜みんなで花火をすることになったので、後輩たちが撮影をしている間に私と揺花はその買い出しに行った。


 宇都宮は撮影に同行していたので、私は揺花に

「撮影の方に行けば良いのに」

と言ったけど、揺花は笑っているだけだった。


 それ以外は昨日同様私と揺花は特に合宿らしいことをするでもなく夕方になって、食事や入浴を終えた私たちは後輩と共に庭に集まった。

 先生と宇都宮も一緒だ。


 全員が揃ったところで花火大会が始まる。

 手持ち花火が配られ、蝋燭から火を付けると、鮮やかなオレンジ色の光が弾ける。

 それとほぼ同時にあちこちから歓声が上がる。

 私と揺花は一緒に花火の輪の中にいて、紅い炎がパチパチした花火が可愛いと見せ合ったりしてはしゃいだ。


 手元に配られた数本がなくなると

「貰ってくるね!」

と揺花が取りに行った。


「ありがとう」


 答える私の手には今火を付けたばかりの花火が眩しい閃光を放っている。

 眼が眩むようなその光は、まるで夜の中に小さな小さな昼の世界が現れたように、そこだけがとりわけ明るく照らされる。
 私の瞳が小さな美しい世界に奪われていると、やにわに耳心地良い甘い声を聞いた。


「綺麗だね」


 顔を上げると、先生だった。

 先生は私の指の先にある真昼の世界を見つめていた。

 光が反射して映り込み、その整った顔が一層幻想的に見えている。


 私が先生から眼を離せないでいるうちに花火の火は消えてしまい、眼の前が急速に闇になる。


 闇の中で先生は、

「あんまりここだけ明るいんで思わず見に来ちゃった」

とくすりと笑った。

 そして、はっきりとは見えないけれど、いつものように可愛い笑顔でにっこりしたようだった。


「先生もやる?」

 私が訊くと、

「今向こうで打ち上げ並べようと思ってんだ」

と庭の端を指差した。


「私も手伝うよ」

「大してないからいいよ」


 先生は首を振ったけれど、

「二人でやるともっと早いから」

と、先生の先に立ってそこへ向かった。
< 20 / 316 >

この作品をシェア

pagetop