星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 あれは2学期の始め。


 昼休みの教室に悲鳴にも似たざわめきが聞こえた。

 覗いた廊下の先には長いストレートの黒髪に膝上丈のスカートの生徒の後ろ姿。それが南条だと認めるのに時間はかからなかった。

 その向こうには数人の生徒達が取り巻く中央に中学3年の落合。よく俺に絡んでくる生徒だ。


 なんで中学のフロアに南条がいる?

 しかも落合ととか、組み合わせもおかしい。


 幽かに聞こえたり消えたりするふたりの声に釣られるように俺が廊下に出ると、二人を遠巻きに見ていた生徒達の何人かがこちらに気付き、振り返りながらひそひそ話すのが見えた。

 素知らぬふりで窓際の柱型の陰にそっと立って耳をそばだてていると、南条は言った。


「初原先生は私たちのことを妹のように思って下さってるわ。親身になって話を聞いて下さり、時間を割いて手助けして下さり、時にはそうして包みこんで下さる。そういう方じゃない?」


(俺…?)


 南条の言葉に心臓が大きく波打つ。


 生徒たちが俺と南条との夏休みの一件を噂しているのは知っていた。
 しかもその大半は事実ではなく、中には南条を貶める者もあった。


 が、俺は抗議のひとつもしても良かったわけだが、あえて聞こえないふりをしていた。

 俺が口を出すことで噂が炎上するかもしれない。
 言わないことが南条のためなんだ。

と言い訳をして…


 にも関わらず俺のそんな胸の内も知らず南条は俺を信頼していた。

 ましてや俺が自己満足のために南条を利用していたことなんて全く疑いもせず。


(南条…)


 きゅっと胸が痛む。


 きっと俺とのことで落合に吹っ掛けられたんだろう。
 そんな状況でも俺を信じて庇って啖呵を切った彼女。

 なのに俺は彼女のために何も出来ないのか?何もしないのか?
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