星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 気付くと俺は席を立って職員室を飛び出していた。
 職員室から繋がる新校舎のエントランスホールに駆け込むと、幽かにホールに人の話し声がこだましているのが聞こえた。
 俺は声のする方へと、階段を駆け上がる。


 頭上でがらがらと引き戸を開ける音がした。

「お前の選択が親御さんや俺も含め学校に少なからず影響することを肝に命じとけ」

 村田先生の声。


「村田先生!!」

 俺は階段を上がり切って廊下に飛び出す。

「私が言える立場じゃないのは分かってます。でもそれは…学校に迷惑かかるとか、そんなのは南条には関係ないことです!」


「先生…!」


 思いがけず現れた俺に南条が瞳を見開いて、呟くように呼んだ。


「若い人は理想や希望に溢れていて良いものだね。
 でも初原先生。学校というものは理想と希望だけでは成り立たないんですよ」

 村田先生は心の内が見えないような冷たい微笑みで言う。


「学校経営というものを考えたことはありますか?
 学校の経営が成り立たなくなったら、これから未来ある若者たちを我々が育てることが出来なくなる。違いますか?」

「…っ!」


 村田先生は正しい。


 でも今は一般論の正しさなんかはどうでもよくて。


 ただ南条を守りたい。

 彼女が安心して夢を探せるように、ただ彼女を守りたい。


 ただ、ただそれだけなんだ─


「生徒自身の将来のためにもなるわけですからなんら問題はないでしょう?」

「でもそれを南条は望んでません!」

「では南条はどうしたいんですか?」

 村田先生が南条へ視線を向ける。


「それは…」

 南条が俯いて口籠る。
 華奢な肩を更に縮こませた様から彼女の緊張が伝わってくる。


 無理しなくていいよ、南条。

 お前が夢を見つけるまで俺が守るから─
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