星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 打ち上げは本当に少ししかなくて、あっと言う間に並べてしまいそうだ。

 そこに宇都宮が

「もうこっち火付ける?」

と言ってやって来た。


「私がやりますから。

 それより揺花。
 あの子これでホントのホントに部活最後だから、何か言ってあげて下さい」

 私は宇都宮を押しやった。


「そうか?じゃあ頼むな」

 宇都宮はそう言って皆の所に戻っていく。


 再びその場には、先生と私、二人になる。


「…ね、先生」


 私は先生を振り返る。
 振り返りざま、ポニーテールがくるんと振れた。


「一番派手なの最後にしてさ、打ち上げ花火、盛り上げようよ!」


 私の言葉に先生が微笑む。


「どれが派手かとか分かんなくない?
 ほら、ここに時間は書いてあるから、長めなのを後に集めて一斉に火付けたらどうかな?」


と先生が答える。

 意見は冷静だけれど、その声はとても高揚して聞こえた。


「うん!じゃそれやろう!」


 それから私と先生はどうしたら派手な演出になるかああでもないこうでもないと話しながら花火を並べた。


「南条、それこっち頂戴!」


 暗がりの中、仄かな蝋燭の灯りだけに照らされた先生がこちらに手を伸ばす。

 僅かな灯りの中でも分かる。

 私が先生に出会ってから今まで見た中で一番楽しそうな笑顔なのが。


 流れる汗もそのままに瞳を輝かせる先生の屈託ない様は、本当に『少年』そのものだった。


(先生…可愛い)


 それは決して先生を『可愛い扱い』するわけではなく、純粋に先生という人が『可愛い』と思った。


 男の人、それも歳上の人を『可愛い』と感じたのは初めてだった。

 そしてその『可愛さ』は同時に『愛しさ』だった。

 私の中に閉じ込めてしまいたい、と思った。


 それは、生まれて初めての感情。



 花火を並べ終えた先生が手の甲で額の汗を拭いながら顔を上げる。


「南条」


 鬼ごっこをしている子供のように頬を紅潮させて、先生が私を呼ぶ。


「そろそろやろう!」


 振り向いたその瞳はやはり少年のそれで、そんないつにも増して輝いている先生に私は胸が熱くなるのを止め得なかった。


「はいっ!」
< 21 / 316 >

この作品をシェア

pagetop