星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 塾の教室で先週と同じ席に座っていると、廊下から華やかな声が聞こえてきた。


(清瀬くん達だ)

 背筋に緊張が走る。


 ドアが開き、清瀬くんが一人で教室に入ってくる。

 私は声を掛けようとしたけれど、清瀬くんは私に眼も留めず後ろの方の席に向かって行く。
 私が椅子から立ち上がりかけた時、再びドアが開き講師の先生がやってきて、結局話しかけられないまま授業が始まってしまった。

 授業が終わって直ぐに私は清瀬くんと話そうとしたけれど、清瀬くんはまた早々に教室を出て行ってしまう。
 私は慌ててバッグとコート、ピンクのマフラーを手にして後を追ったけれど、清瀬くんに追い付くことは出来なかった。


『清瀬くんどこにいるの?』


 メッセージを送るけれど既読は付かない。


昨夜も

『今日は急にいなくなってごめんね。明日話したいことがあるの』

と送ったメッセージに既読こそ付いたけれど返信はなかった。


(清瀬くん、怒ってるよね)

 当たり前だと思う。


 清瀬くんを利用して先生に振られた傷を癒そうとして、そして今度は先生と邂逅して勝手にいなくなって。
 自分の狡さに自分でも呆れるほどなのだから。


 私は仕方なくひとり帰路を辿る。

 自宅最寄りの駅で電車を降り、とぼとぼと歩いていると、先週清瀬くんと話をした公園に差し掛かった。


(あれからまだ1週間しか経ってないんだ…)


 あの時やっぱり何があっても清瀬くんとは付き合わない、と決めるべきだったのかな?

 そうしたら清瀬くんを傷付けることもなかったのかな?


 足元しか見えないほど項垂れて歩く。
 夜道が今夜は一層寒々しい。


 今頃清瀬くんはどうしているだろう。

 そう思うと胸が締め付けられる。
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