星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 植物園に着いてもまだ陽は空に残っていて、まだライトも灯っていない植物園は普段通りの姿だった。
 庭園はまだ人も少なくて、穏やかな時間が流れている。


「園内で食事出来るけど、今日なんか凄い混むだろうから先に何か食べようか?」

と先生が誘ってくれた。

「あったかいものを食べたい」という私のリクエストに先生は洋食屋さんでシチューをご馳走してくれたのだけど、私は全然食べられなかった。


「やっぱちょっと早すぎたかな」

「うぅん!そうじゃないの」

 おなかが空かないとかいうより、胸がいっぱいで喉を通らなかった。
 だって、今更だけど先生とごはんを食べるのは初めてで、緊張してしまったから。


 店を出る頃には辺りは夜闇に包まれていて、イルミネーションの点灯を今か今かと待つばかりになっていた。

 コートのポケットに手を入れて歩く先生の半歩後ろを付いていく。


 庭園の入口まで歩いた時

「お待たせ致しました。イルミネーション、点灯致します!」

 アナウンスと共に、同時に視界が青白い光に満たされた。



「うゎ…ぁ…」


 目映いまでの青く煌めく世界。

 樹が、花が、土が、水が、透き通る青の光彩に浮かび上がる。

 人も、空も、冷たい空気も、全てがその瞬く青に一体になる。

 それはまるで天空に溶け込んでしまったようだった。


 そして私の傍らには─


「…綺麗だね」


 先生の微笑みも青に彩られ、いつにも増して美しく見えた。


「…うん」


 眼に映る全ての物が夢のように青く青く輝く。

 夢のように…


(夢だったら…やだな)


 私はふと先生のコートの肘の辺りに手を伸ばす。


 でも…

 それに触れかけて、やめておいた。


 触れてしまったら、幸せ過ぎて何か言い得ぬ不安が襲うような気がしたから。不安が現実に引き戻してしまう気がしたから。
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