星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

「私もね、先生にプレゼントがあるの」

「え、何?」

「うん。でもね…大したものじゃないから、こんなに素敵なもの貰うと思わなかったから恥ずかしいな」

「なんで?南条が俺のために考えてくれたんでしょ?何だって嬉しいよ」

「うん…」


 手に持った白いレザーのバッグからためらいがちに小さな箱を取り出し、先生に手渡した。


「チョコレート?」

「…うん」


 何を渡していいか分からなくて兄に相談した。

『5歳も年下の彼女から貰うならあんまり高くない物がいいな。頑張らせちゃったと思うの、辛いからなぁ』と言う兄の助言に、ベルギーのチョコレートを選んだ。


「ありがとう。でも、食べるの勿体ないな」


 先生の笑顔はチョコに負けないくらい甘い。


「食べないと溶けるよ」

 嬉しそうな先生に私も微笑み返した。


 不意に眼が合った先生がふと真顔になる。


「南条…」


 そっと頬に触れ、先生が少し身を屈める。
 触れた指も近付く顔も青い光に映し出され、幻想的な空間に頭の中が痺れていく。

 そんな朦朧とした感覚の中で、


(私…先生にキスされる…)


なんてことだけはっきりと思って、私は瞳を閉じた。


 直ぐそこに感じる先生の気配。体温。

 そして─


 幽かに唇に何かが掠れたか掠れなかったか、微妙な触感の一瞬の後。


 頬に先生の吐息が掛かった。

 眼を開けると同時に先生が離れる。


「止めておこう」


 困ったように先生が微笑んだ。


「俺、南条のことになると自分に甘くて駄目だな。ごめん」


「うん…」


 信じて待つって決めたから仕方ない。


 仕方ない、けど…

 夢のような雰囲気に酔いしれて期待してしまっただけに、ちょっと残念に思った私は悪い子かな─?
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